2016年4月、平井嘉一郎記念図書館が開館した。私は当時、図書館長だった。開館時のセレモニーで、本図書館を立命館大学図書館ではなく、平井嘉一郎記念図書館と呼んで欲しい旨述べた。それは次のような理由による。
嘉一郎氏は立命館大学法学部経済学科卒業生であり、現在のニチコンの実質的創業者である。氏は、次代を担う若人の役に立つことを考えていた。信子夫人はこの遺志を実現するために「平井嘉一郎記念財団」を設立し、社会貢献活動をする中で、本学法学研究科大学院生の研究支援を行う「平井嘉一郎研究奨励賞」を設けた。
吉田美喜夫法学部教授はこのご縁から、図書館長の時期に信子夫人に対して図書館一棟のご寄贈をお願いし、ご一緒に米国有数の諸大学の図書館を見学するなどして、実現に至った。暑い夏、信子夫人は建造中の建物を訪れ、作業に従事する人たちにアイスクリームを用意するなど、完成を心待ちにされていた。嘉一郎氏の遺志を叶えたい、顕彰したいという思いの深さを感じた。開館後、図書館に来られた際に、ご挨拶やお礼を述べる学生に接すると、こぼれるような笑顔で応えられていた。嘉一郎氏と信子氏お二人の意志を象徴するのが図書館の命名だと思うのである。
平井嘉一郎記念図書館には、嘉一郎氏のメモリアルルームと共に、2つの文庫がある。漢字研究の泰斗であり、文化勲章を受賞した本学文学部教授の白川静と、思想家、評論家として世界的に活躍し、本学国際平和ミュージアムの初代館長を務めた加藤周一である。それぞれ書籍や創作に至る過程のノート、諸資料等の寄贈を受け、それらを整理し、可能なものは閲覧に供している。特に、加藤文庫は、その大半の著作の手稿をデジタルアーカイブ化し、海外からもアクセスできるようにしている。本図書館は、学生・院生・教職員・市民の学びの場であると同時に、2つの文庫を通じて学問や知の世界がどのようにして築かれたのか、その情報発信の場でもある。まさに大学の図書館としての本分を全うしているように思う。
このような平井嘉一郎記念図書館の館長を務め、館員のみなさんと一緒に内容の充実に取り組んだことを、私事ながら、誇りに思っている。