Feature #01

図書館でできる フェイクニュースの見分け方

学生生活に役立つ情報リテラシー

濱田元子/サトウタツヤ

社会全体を見渡すと、インターネットの普及は「信頼できる情報を見つけだす」という作業をより難しくしたかもしれません。「何が事実かわからない。何を信じていいのかわからない」。発信者が誰であるかわからない、大量かつ複雑で多様なメディア環境の中で私たちは「事実を知る」ことに対して混乱し、調べるという行動のやり方が分からなくなっているのではないでしょうか。SNSで誰もが発信し、本物そっくりのディープ・フェイクや扇動が溢れている一方で、人々は自分が好む情報だけを与えられる(情報のタコツボ)傾向があり、だからこそ真実を見極める力が重要になっています。

今回は、サトウタツヤ先生(総合心理学部教授)と濱田元子さん(毎日新聞東京本社論説委員)に、知って学び深める作業の元ともいえる、情報リテラシーについて語っていただきました。

濱田元子氏

STORY #01

情報をただ受け取るだけでなく
自分の経験をもとに
考える時間もつくろう

濱田元子氏

毎日新聞東京本社
論説委員、学芸部編集委員

スマホからの情報収集は
受け身になりやすく、
エコーチェンバーも起きやすい

例えばコロナ禍をめぐる一連の情報や、東欧・中東における戦争・紛争に関わる情報などは象徴的ですが、あふれる情報の中から受け取ったものがフェイクニュースであるか否かを見極めることが難しくなってきています。一方、十代から二十代の若者の間では、ニュースなど世の中の情報を、テレビや新聞ではなくTikTok やYouTubeなどの「スマホ動画」から得ることが普通になりつつあると言われます。この状況についてどうお考えでしょうか。

濱田 まず懸念されるのは、情報に対して受け身になっているのではないかということです。電車内でもずっとスマホを見ている人が目につきます。玉石混交のネット上の情報を休む間もなく受け続け、考える時間さえ奪われている状態なのではないかと思います。また、スマホでの情報収集はエコーチェンバー*が起きやすくなります。欲しい情報だけが次々と表示されるために、情報がたこつぼ化してしまうのです。まずは、そういったことを認識する必要があると思います。そして、スマホから得た情報について、例えばニュースソースはどこか、動画で情報発信している人がそのニュースを発信するのにふさわしい立場なのかを立ち止まって考える時間を作る。それがフェイクニュースを見分けるスタート地点になるのではないでしょうか。

エコーチェンバー(echo chamber):閉鎖的なコミュニティーの中で同じ意見の人たちとの限られたコミュニケーションを続けることにより、その意見が正しいと思い込んでしまう現象を指す言葉。思想から趣味まで、似た傾向の人間同士が集まるコミュニティーは居心地が良く共感も得やすい。エコーによって特定の意見や思想が増幅され、影響力をもつことは多いが、コミュニティー内部における常識がそのまま社会の常識とは限らない。また事実よりも共感が重視されるため、誤った情報を正しいと信じる人が、それを拡散させることでさまざまなトラブルが発生する。(出典:JapanKnowledge Lib)

エコーチェンバーを打ち破る
習慣を身につけよう

エコーチェンバーを打ち破り、情報を見分けるにはどのような習慣を身につければよいのでしょうか?

濱田 自分の考えに合わない情報を見聞きするのはだれしも不快です。でも、世の中にはそういうものもあるということを頭の片隅に置いておく必要があります。いつもとは違う種類の情報をのぞきに行って、「どうして違うのだろう?」と深堀りしてみると、視野も広がり、エコーチェンバーを打ち破ることにもつながると思います。好奇心を持って情報を得ようとするのは大切です。シャワーを浴びるようにただ情報を受け取るだけではなく、自分でも考える習慣を身につけてはいかがでしょうか。

学生の皆さんも、これまでに人と会い、本を読んで学んできた蓄積、経験値があるでしょうし、大学生活の中でいろいろなことを知りたい、学びたいといった知的好奇心もあることでしょう。まずはそれらを信じることです。情報に接した時は、自分自身の経験から、例えば先生の何気ない一言などを引き出してきて、それをもとに自分で考える時間を作ってほしいと思います。

そのような考える素地を作ってくれるのが読書です。特に小説は人と人との関係を言葉の間から読み取るなど想像力が不可欠ですよね。情報に接する時も「私だったらどうするか?」と相手の立場に立って考えることも必要です。エンパシーと呼ばれるものです。読書はそんな力を養う一助になると思います。

新聞記者の情報の集め方、
記事の書き方

新聞記者として日々記事を書く際に、どのような点を特に注意しておられますか?

濱田 私のように30年以上長く記者をやっていると、記事にしようとする対象に接したときに、まずその情報を「斜めから見る」ことを私自身、習慣づけられていることに気付きます。人の話には何かしらのバイアスがかかるものだからです。たとえばある団体の活動を紹介する時も、ウェブサイトに書かれていることをそのままではなく、その団体に直接電話で確認します。現在の状況はサイト上の情報とは違っているかもしれませんし、直接話せば、より多くの情報が得られるからです。その分野で信頼されている専門家の本を手元に置き、疑問があればすぐに調べたり、事実と突き合わせるのも記者としての習慣ですね。今も本棚にはたくさんの専門書籍があります。

新聞記事とSNSなどの情報・動画との本質的な違いは何でしょうか。

濱田 皆さんもご存知のように、新聞社では記事を書いた後、そのまま紙面に掲載されるということはなく、デスクや紙面編集を担当する整理記者などによる何重ものチェックがあります。新聞社各紙においては、社として伝えたいことを加え世に問うということはもちろんありますが、厳重な何重ものチェックを経て記事にするというプロセスがあるので、新聞はニュースソースとして信頼できるものという自負があります。総務省『令和三年版 情報通信白書』の「各メディアに対する信頼」調査で、新聞を「信頼できる」とした人は61%、「半々」をふくめると80%以上にのぼりました。大学の初年次教育において、図書館のリテラシー教育などで新聞記事のデータベースの活用を指導していますよね。新聞が他のニュースソースと比較してより信頼されていることなんだろうと思います。

学生の皆さんには、スマホを見る時間の一部を新聞や雑誌など別のより信頼度の高いとされるメディアにふれる時間に割いていただければと思います。一方、玉石混交の情報の中から“玉”を見極めるためには、“石”にも触れておくことも大切。フェイクニュースがはびこる現実もきちんと認識したうえで、より正しい情報を見極めようと努力する姿勢や習慣を身につけることもこれからの社会で生きる上では大切なことですね。

大学に入学する皆さんは、選挙権を行使することによって自分たちの国をどうしたいのか、その社会への責任を持つ年齢に達しています。そんなことも考えながら学修してほしいと思います。確かな情報を見極めることが民主主義を健全に機能させることにつながります。図書館にあるさまざまなメディアをうまく使って学びを深め、これからの社会のより良い未来をつくることに生かしてほしいと思います。

STORY #02

人の価値を自分の中に
抱えてみる経験を重ね
「価値の山」をたくさん作ろう

サトウタツヤ先生 総合心理学部 学部長

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