人と人との繋がりを大切に、
自分のリサーチ・クエスチョンを突き詰めよう。
レポートや論文にとりかかるのがおっくうな時はありませんか? まとまった時間がないと書けないと思っていませんか? 今回は、グローバル教養学部の廣野先生に、情報を集めてレポートや論文を書く時の具体的なアドバイスや、研究者として「事実」とどう向き合うかについての知見を伺いました。
研究内容について
紛争地域の国々の視点で中国を研究
私の専門分野は中国の国際関係論です。今、注目しているのは、南スーダンやミャンマー、アフガニスタンなどの紛争地域で、中国がどのような役割を果たしているかということです。
中国に関する議論はイデオロギーによりがちで、紛争地域でも、中国が一方的に現地の国々を牛耳っているという印象を持つ人がいるかもしれません。しかし、実際に行ってみると分かりますが、現地の国々は、近づいてくる大国を自らの利益の為にいかに利用するかという視点を常に持っています。私は、それらの国々が、中国をどう見て、どう利用しようとしているかを研究することを通して、紛争地域での中国の役割を明らかにしたいのです。
国際関係=リーダーとフォロワーといった「人と人」の関係
いま私が研究を進める中でフォーカスしていることは、国際関係におけるフォロワーシップについてです。国際関係で大国がリーダーシップを発揮するには、(投資先や援助の提供先である諸外国といった)「フォロワー」からの支持が不可欠です。つまり相互の関係がなければ、リーダーシップは成立しないということです。では、フォロワーはリーダーシップを発揮する中国をどう捉えているのでしょうか。中国を悪者にすることも、経済発展のチャンスと捉えることもできます。つまり、リーダーの評価は、フォロワーがリーダーをどう見ているかによって大きく異なってきます。言い換えれば、国際関係は、人と人の関係です。本来なら子どもにも分かるようなシンプルな話のはずなのですが、私たちはそのことをつい忘れがちです。世界のほとんどの国は発展途上国ですから、彼ら(発展途上国)が中国を、そして世界をどう見ているかという視点は、国際関係を考える上でとても重要だと思います。
推測ではなく、事実を捉える
私の新編著『一帯一路は何をもたらしたのか : 中国問題と投資のジレンマ』では、中国の一帯一路について、イデオロギーや推測を排した考察を行いました。通常、大規模な国家プロジェクトは予算や実施年数が明らかにされているものです。しかし一帯一路にはそれがないため、推測に基づく考察が行われているのが現状です。その現象をわかりやすく解説されているのが、東京大学の高原明生先生です。先生は、一帯一路を星座にたとえています。空に星があることは科学的に証明できますが、その星と星を線で結んだ星座は、実在するものではなく、人々が生み出した「考え方」であると。「考え方」にはそれなりの意味があるかもしれませんが、星座そのものが実在すると考えると、見当違いの話になります。一帯一路についても、実際には存在しない「線」が実在すると考えてしまうと、間違った分析になってしまうのではないか、私はそう危惧しています。
星座の線ではなく、星を見る。実際に造られたダムや道路を観察し、実際にそこに住む人からの話を聞く。そういった「事実」(生のデータ、いわゆる一次資料)など、見たり触れたり聞いたりできることの確認を怠らないことが、研究の根幹に必要だと考えています。
いつもゼミ生に伝えていること
勝手な思い込みをしないこと
ゼミ生によく言っているのは、"Don't make assumptions" 勝手な思い込みをしないでほしいといことです。相手の名前、顔立ち、国籍で、その人の考え方まで先入観をもって捉えるような思い込みは危険です。
例えば、中国の学会に行っても、「では廣野先生の日本的考えを聞きましょう」と言われることがあり、そういった「定義づけ」に大いなる違和感を覚えます。私はたまたま日本人名を持ち、日本の国籍を持っていますが、考え方や捉え方は誰かに先に規定されるものではないはずです。「日本の考え方」「中国の考え方」、そういったバイアスは、研究上はむしろ邪魔になるものだと思います。全ての「日本人」や全ての「中国人」が同じように考えるわけがないのです。一般化をやめて思い込みを疑うことが重要です。それは論文を読むときも同様です。筆者の背景と議論の内容との関連を分析することは重要ですが、筆者の表面的な所属や肩書きなどに先入観をもちながら読むことは、研究者の態度として望ましくありません。それは人と人の関係でもいえると思いますが、勝手な思い込みから誤解が始まり、差別にもつながりかねません。
ゼミ生にも、ステレオタイプに当てはめて物事や出来事を捉えず、ありのままの事実を浮き彫りにできるよう、一次資料そのものに真実を語らせるよう、伝えています。解釈や推測に基づく議論には、本当にそのような主張をするだけの実証的な証拠があるのか、ということをつきつめる姿勢が肝要です。
- 2015年ネパール地震による被災者と中国の人道支援に関するインタビュー(ネパール・チベット国境付近)
- 「中国と変容する国際秩序」講演(ハーバード大学ケネディスクールアッシュセンター)
論文を書くためのアドバイス
よく使うデータベースについて
学生と一緒に使っているのは、「ProQuest Central」。中国関係では「CNKI 中国学術情報データベース」で中国発行の雑誌などをよく見ています。中国はデータを公表しないことで有名ですが「北大法宝」はとても重宝しています。中央政府や地方政府が制定するすべての法律や判例、外国と結んだ条約や宣言など、公式のものがすべて提供されているからです。「まとめて検索(RUNNERS Discovery Service)」もよく使っています。
図書館からの
アドバイス
データベースは、キャンパス内はもちろんご自宅からでも利用することができます。ご自宅からデータベースを利用したい時は、RAINBOW ITサポートの「RITSUMEIKAN ITサポートサイト」のVPNから手続きをしてください。
RITSUMEIKAN ITサポートサイト論文は書くものではなく、積み上げるもの
「論文は書くものではない」と言うと、驚かれるかもしれませんね。論文はビルドアップ、組み立てていくもので、ひとつひとつの要素は積み木のピースです。それをいかに整合性のある形で積み上げていくかという考え方をするとよいと思います。最終的な「論文」という山の大きさにたじろぐことなく、小さな積み木(例えば1段落)を作って、全体像を考えながら積み上げていくイメージで取り組んでみてはどうでしょうか。今日はこの段落を30分で書こう、今15分あるからこの3文だけ書こう、というタイムマネジメントの発想もできるようになると思います。
論文を書くのに悩んでいる人へ
おすすめは、Air & Light & Time & Space : How Successful Academics Write。世界中の100人の学者に、それぞれの執筆スタイルを聞いた本です。いつ書くか、どこで書くか、さまざまな経験談やアイデアが語られていてアカデミックライティングに関する「みんなちがって、みんないい」のような内容です。読んでいると「こんな書き方をしてもいいんだ!」と楽しくなると思います。私もこれを読んでから、朝起きてすぐ、脳みそがフレッシュでシャープに考えられる時間に30分だけでも書くようにしています(起きられない時もありますが)。これをすることで、一日が素晴らしい感じで始まるようになりました。
図書館の使い方について
想定外の良本に出会えることがある
最近、大学図書館が契約しているデータベースを使うことが多くなっています。それでも、実際に書架に行く時は今もワクワクします。なぜなら、探していた本の周囲で、想定外の良本を発見することがあるからです。その瞬間の興奮は、図書館で本を探す醍醐味ではないでしょうか。
図書館からの
アドバイス
立命館大学には衣笠キャンパス、朱雀キャンパス、びわこ・くさつキャンパス、大阪いばらきキャンパスの4キャンパスに計7つの学習図書館があります。
廣野先生は授業の準備でOICライブラリー、研究活動で修学館リサーチライブラリーを利用されているとのことです。
新入生の皆さんへのメッセージ
「どこにいるか」ではなく「何を求めるか」が大切
新入生の皆さんの中には、コロナ禍によって、想定していた通りの人生にならなかったという人がいるかもしれません。私にも、自分の意志に反して外国から日本へ帰国せざるを得ず、人生がまるで変わってしまったことがあります。でもその経験を通して、自分の好きなこと、できること、人との関わりで学べることは、どんな環境にいても変わらないんだということを知りました。どこにいるかよりも、何を求めるかが大切です。それによって、開ける世界が変わってくるのだと思います。そして予期せずに帰ってきた日本での生活は大好きです。立命館での素晴らしい出会いに感謝しています。
廣野 美和
グローバル教養学部 准教授
- 研究テーマ
- 中国の平和維持活動、人道主義、開発援助、紛争仲介
- 専門分野
- 国際関係論、中国地域研究
- 著書
- 『一帯一路は何をもたらしたのか:中国問題と投資のジレンマ』 勁草書房(2021年)
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