言語学・日本語教育専攻

人はことばによって社会を築きます。人はことばを通して思考し、世界を理解し、思いと感動を表現し、文化を伝えます。ことばとコミュニケーションは人が社会に参加し、文化的実践を行うかなめです。そのようなことばそのもの、そして自他のことばの実践を探究し、より高い思想の表現と伝達の力を探求することは、人の可能性を大きく飛躍させます。このようなことばがもつ働きや巧妙な仕組みを客観的に分析し、系統的に記述していくのが言語学という、言語コミュニケーション学域の基盤となる学問です。

ことばは文化を築きながら、しかもなお、異文化の壁を越える力にもなります。国際化が日常生活の一部となった現代社会において、日本語の重要性はさらに高まり、それとともに日本語教育を実践する高度な力が求められています。ことばを学び、教えることの深い理解にもとづく教育実践は、わが国のみならず自分自身の国際化に大きく寄与します。日本語を外国語として学ぶ人たちへの言語教育と、異文化間コミュニケーションの考えに基づいた実践が今、求められています。

言語学・日本語教育専攻は、ことばのプロになることを目指し、無自覚に獲得したことばの奥深さと難しさを知り、ことばと文化、コミュニケーションを通じ、自己と他者との関係性を再発見し、人、社会、世界とつながるための異文化間コミュニケーションとしての日本語教育を追究します。

代表的な授業

共生コミュニケーション演習
(異文化間コミュニケーション演習)

異なる価値観や習慣への好奇心から、さらに一歩踏み出してみませんか。この授業では、短期留学生と小グループでSDGs(持続可能な開発目標)やユニバーサル・デザインを目指したプロジェクトに取り組みます。多様な考えを持つ仲間と同じ地球市民として協力し合う経験をすると、きっと今まで見たことのない景色が見えてきます。

日本語教育特別研修

海外の大学での日本語授業、または国内の留学生向け授業で教壇実習と見学をします。実際の教育現場では、多様な背景を持つ学習者、教育機関の方針、教師の持ち込む教育観、といった様々な観点を調整しながら教師は教育的な判断をします。習った理論だけでは解決できないリアルな現場で、教師はどのように行動すべきか、一緒に考えましょう。

対照言語学

対照言語学は、複数の言語を比べて共通するところと違うところを明らかにし、なぜそこが共通していてなぜそこが違っているのかを探っていくものです。たとえば、英語では “go to that house” と言い、日本語では「あの家に行く」と言います。ここでは、英語の単語と日本語の単語がきれいに対応しています。ところが、英語では “go to that door”と言えるのに、日本語では「あのドアに行く」とは言えず、「あのドアのところに行く」としなければなりません。日本語は面倒くさいでしょうか。でも日本語で「いい天気ですね」は、英語では “It’s a fine day, isn’t it?” で、英語の方が面倒くさくありませんか。イギリス人も日本人も、人間の顔をしています。同様に、英語も日本語も、人間の言葉をしています。ですが、イギリス人はイギリス人の顔をしており、日本人は日本人の顔をしているように、英語は英語の言葉をしていて、日本語は日本語の言葉をしているのです。多様性の中の共通性、これが面白いのです。

ゼミ紹介

日本語教育・多文化コミュニケーションゼミ

このゼミでは、「捉え直し」をコンセプトにしています。ゼミのみんなで日本語を外国語として学ぶ留学生との交流学習やオンラインで多文化交流の場を企画します。今までと異なる考え方や見方に出会い、違った角度から日本語、物事、自分自身を見つめ直すと、急に霧が晴れるような「おお!」という感動があります。あなたもゼミの仲間と一緒に「おお!」体験をしませんか。

心の声駆動の言語学ゼミ

まったく努力なくできる、むしろやめることのほうがはるかに努力を要することがあります。それは、言葉(母語)で心に思うことです。考えているときも、何も考えたくないときも、楽しいときも、つらいときも、勝手に心に浮かんでくるもの、それが言葉です。考えているときは、「これはこうだから、こうなるはずだ」のような言葉が出てき、何も考えたくない辛いときは、「もう何も考えたくない、泣きたい」などという言葉が勝手に心のうちに、あるいは思わぬ独り言として、出てきます。夜寝ているときは、心の中に勝手に夢が出てきて、そこの登場人物が勝手に言葉を交わし、そこにいる自分は勝手にその登場人物に言葉を投げかけ、あるいは言葉を投げかけはせずに、その登場人物に対して、「きっと悪巧みをしている」などと、夢の中の自分の心が勝手に思います。言葉でです。言葉は、夢の中でも、現実の中でも、私たちの心の中で勝手に活動をしています。
写真は、塗る動作を表す言い方のどれがいいかを議論しているところです。佐野ゼミは、心の声、心の言葉を聞くゼミです。

データ駆動の言語学ゼミ

ことばはいわゆる文系の代表で、そんなことばの研究と数やコンピュータは相容れない、と印象があるかもしれません。そんな印象を打ち消すゼミです。ことばの研究は多かれ少なかれ、例を手掛かりに分析を進めます。ことばの例を大量に集め(コーパスとよばれます)、AIやデータサイエンスと総称される高度な技術に基づいた、ことばの分析が、近年、誰でも手軽に行えるようになってきました。このゼミでは、身近なことばの疑問に、そのような新しい方法論で迫ります。あつかう対象も日本語に限らず、話者が少ないことばや、手話といった視覚的なことばも射程としています。さらには、各自の興味に基づき、ことば文学作品や歌詞などのことばを媒介してその紡ぎ手との心理、カタログなどの広告上のことば、ことばの造形から伝わる印象といったことばと外界の研究も多く提案されています。他のゼミに比べると小さなゼミなので、いつも和気あいあいと全員が発言し、議論するゼミです。