企業を経て研究者の道へ
もともとは航空・宇宙分野を勉強したいと思い、大学に入学。4回生で配属された研究室が、当時まだあまり知られていなかった宇宙ゴミ(スペースデブリ)を扱っており、「おもしろいな」と思ったのが、現在の研究との出会いでした。スペースデブリとは、地球の軌道上にある不要な人工物体のことで、具体的には使用済みあるいは故障した人工衛星、打ち上げロケットの上段、ミッション遂行中に放出した部品、爆発・衝突し発生した破片などのことを指します。これらは(低軌道の場合)およそ秒速7 kmの速度で周回しています。私が関心を抱いたのは、そうした超高速で飛行する物体の衝突現象。人工衛星などにぶつかれば、致命的な損傷を与えかねないことから、近年注目が集まっていますが、私がスペースデブリの研究に携わり始めた頃はほとんど手つかずの研究テーマでした。
とはいえ最初から研究者を志したわけではありませんでした。修士課程を修了後、一度は企業に就職し、人工衛星を作るための製造技術の開発に携わりました。念願の宇宙に関わる仕事でしたが、忙しい日々の中、次第に物足りなさを感じるように。企業での研究は、開発目標や予算が決められており、目標の値を出せば、開発の役割は終わります。「もっと追究すればどうなるのか」「なぜ、こうした現象が起きるのか」。そんな疑問を解明することはできません。
やがて「もっと疑問を突き詰めたい」との思いが膨らみ、退職を決意。大学の博士課程に入り直し、研究者としての道を歩み始めました。