理工学部 機械工学科 教授

渡辺 圭子

1998年、大阪大学大学院工学研究科修士課程を修了後、三菱電機(株)に入社。人工衛星の製造技術開発に従事する。2002年、東北大学大学院工学研究科博士課程に入学し、2005年、博士号を取得。九州工業大学宇宙環境技術研究センターの博士研究員を経て、2006年、立命館大学理工学部助手に。その後、大阪大学大学院基礎工学研究科助教として4年間勤め、2011年から現職。

誰も解明していないことを解き明かす醍醐味

#05

企業を経て研究者の道へ

もともとは航空・宇宙分野を勉強したいと思い、大学に入学。4回生で配属された研究室が、当時まだあまり知られていなかった宇宙ゴミ(スペースデブリ)を扱っており、「おもしろいな」と思ったのが、現在の研究との出会いでした。スペースデブリとは、地球の軌道上にある不要な人工物体のことで、具体的には使用済みあるいは故障した人工衛星、打ち上げロケットの上段、ミッション遂行中に放出した部品、爆発・衝突し発生した破片などのことを指します。これらは(低軌道の場合)およそ秒速7 kmの速度で周回しています。私が関心を抱いたのは、そうした超高速で飛行する物体の衝突現象。人工衛星などにぶつかれば、致命的な損傷を与えかねないことから、近年注目が集まっていますが、私がスペースデブリの研究に携わり始めた頃はほとんど手つかずの研究テーマでした。
とはいえ最初から研究者を志したわけではありませんでした。修士課程を修了後、一度は企業に就職し、人工衛星を作るための製造技術の開発に携わりました。念願の宇宙に関わる仕事でしたが、忙しい日々の中、次第に物足りなさを感じるように。企業での研究は、開発目標や予算が決められており、目標の値を出せば、開発の役割は終わります。「もっと追究すればどうなるのか」「なぜ、こうした現象が起きるのか」。そんな疑問を解明することはできません。
やがて「もっと疑問を突き詰めたい」との思いが膨らみ、退職を決意。大学の博士課程に入り直し、研究者としての道を歩み始めました。

「おもしろい」が研究の原動力

現在は、物体が高速で衝突した時に発生する衝撃や破壊などの現象を研究しています。ふつう自動車が衝突する時のスピードは、秒速数十メートル程度。それに対して秒速1 kmを超えるような高速の衝突では、低速衝突では見られないような特異な現象を引き起こします。ところが衝突は一瞬のできごとのため、計測するのが極めて難しい。どうすれば衝突の際に起こるさまざまな現象を捉えることができるのか。計測方法の開発から行い、誰も計測したことのない現象を解き明かすことが醍醐味です。
今挑戦している研究の一つが、衝突の際に発生する温度を計ること。物体が超高速でぶつかった瞬間、衝突点は高温・高圧となり、電離気体であるプラズマが発生します。このプラズマを計測することにより、衝突点付近の温度を算出しようというのが私たちの試みです。スペースデブリが衝突した時に物体がどれぐらいの温度に達するのかは、NASAをはじめ宇宙業界の人の多くが関心を持っていますが、これまで誰も計測に成功していません。そんな NASAにも解らない現象を捉えることができたらと思うと、胸が躍ります。
「おもしろい」ことが、研究の原動力。これまで誰にも解明できていない謎を解き明かしたい。そんな純粋な好奇心に突き動かされています。

自由に、臆せず追求してほしい

衝撃の研究には大型の専用の装置が必要になります。特に秒速1 kmを超えるスピードを再現できる装置は国内でも限られた大学や研究機関にしかなく、これまで研究環境を求めて東北から九州まで渡り歩いてきました。それだけ身軽に、自由にキャリアを築けたのは、若さと女性であることが強みになったと私は思っています。
研究においても、必ずしも同じテーマを追い続けてきたわけではありません。修士課程では材料力学、博士課程では流体力学を専門とする研究室に所属しました。その都度一から勉強するのは大変でしたが、複数の分野の知識を身につけたことが、今では財産になっています。構造や材料の研究に、圧縮性流体の分野で利用される計測方法を利用するなど、他の研究者が思いつかない発想でユニークな手法を考え出せるのも、複数の専門分野を学んだからこそです。また最近は、学術界はもちろん、産業界でも分野横断や異分野融合が当たり前になっており、一つの専門分野だけに偏らない複合的な知識や、異分野の研究を理解し、連携する力が求められています。私自身も異分野の研究者と連携し、共同研究することが少なくありません。これから研究者を目指す人にも壁を作らず、おもしろいと思ったことを臆せず追求してほしい。その一つひとつが必ず自身の成長の糧になるはずです。