スポーツ健康科学部 教授

塩澤 成弘

2002年、立命館大学大学院理工学研究科情報システム学専攻博士課程前期課程修了、2005年、同大学理工学研究科総合理工学専攻博士課程修了。立命館大学総合理工学研究機構、藍野大学医療保健学部を経て、2009年、立命館大学経営学部准教授、2010年、同大学に新設されたスポーツ健康科学部准教授に就任。2018 年より現職。

人間の動作を理解する機械を目指し生体を計測する

#13

ロボットから人間に関心が移り
生体計測の研究へ

「ロボットを作りたい」という夢を抱いて立命館大学理工学部ロボティクス学科に入学しました。4回生まではロボットの研究室に所属していた私が現在の専門分野である生体計測に興味を持ったのは、牧川方昭先生との出会いがきっかけです。
卒業研究に取り組んでいた時、同じ建物内にあった牧川先生の研究室で、先生が作られた機械を目にしたことで、その後の進路が大きく変わりました。その機械は、人が乗って操作するような、いかにも「メカ」といったかたちをしながら、人間の動作に協調して動くものでした。機械を正確に動かすことも難しいけれど、人間の動作を機械に理解させ、その通りに動かすのはさらに困難な課題です。それまでロボットや機械を作ることに焦点を当て、人間と機械との関係性を意識したことのなかった私には驚きで、「あんなものを作る研究をしたい」と一瞬にして引き込まれました。人間の動作をいかに計測するか。それを考えるうちに、いつしか関心はロボットから人間そのものに移り、研究テーマも生体計測へと変わってきました。何より牧川先生のもとで学びたくて、博士課程前期課程に進学する時、生体計測の研究室を志望しました。

恩師のようになりたいその思いで博士課程に進学

大学院に進学したものの、当初から「研究者になる」と決めていたわけではありませんでした。博士課程前期課程の2年間はあっという間です。1年目が終わる頃には就職活動を始めなければならず、「研究し足りない!」という思いが募りました。しかし当時の理工学部では、博士課程前期課程に進学する学生は多いものの、博士課程後期課程にまで進む人は稀で、将来どうなるのか想像もつきません。私も一時は企業に就職して研究開発に携わろうかと迷いました。
研究者の道を選んだ一番の決め手は、「牧川先生のようになりたい」と思ったことです。牧川先生は、どんなに難しい課題にぶつかっても、誰も思いつかないようなアイデアを次々に生み出し、驚くようなスピードで解決していきます。エネルギッシュで行動力にあふれ、企業や他大学の研究者が参画するさまざまなプロジェクトでもリーダーシップを発揮し、統括されていました。私が今、専門分野を超えてさまざまな人や組織と連携するような大規模な研究に積極的に取り組むのも、そんな牧川先生の姿を間近に見たからです。加えて、決められた研究しか許されない企業と違い、大学でなら自分自身が重要だと思うテーマを追究できると思ったことも、進学を選んだ理由の一つでした。

主体的に取り組んだ経験が研究者としての糧になる

博士課程後期課程を修了後、他大学で講師として勤めた2年間を除き、今日までずっと立命館大学で研究を続けてきました。現在は、同じ大学に勤める研究者である妻とともに小学生の子どもを育てながら大学に通っています。子育てを通して多様な視点から人間を見られるようになったことは、人間の生体や健康について研究する上でも大いに役立っています。人間が成長していく様子を観察することはもちろん、1日5時間、赤ん坊を抱いていたら人間の身体はどうなるのか、また子どもがそばにいる時にはどのように動かなければならないのかなど、実際に経験したことで深く理解できるようになったことがたくさんあります。
これから研究者を目指す若い方々にも、「自ら進んでさまざまな経験を積んでください」と伝えたいですね。私自身、研究する上でもまた仕事をマネジメントする上でも、「周囲を見て学ぶこと」を大切にしてきました。一見無意味に思えるようなことでも、主体的に経験すればそれが後に活きることがあります。そう考え、どんなことでも自分自身にとっての「価値」を探し、目的意識を持って取り組んでほしいと思います。加えてリーダーシップやコミュニケーションスキルも磨き、異分野の人とさまざまなプロジェクトを進められる力を持った研究者が育ってくれればうれしいです。