国際教育推進機構 教授
立命館小学校・中学校・高等学校 代表校長 (インタビュー当時)

堀江 未来

名古屋大学教育学部を卒業後、同大学修士課程を修了。アメリカ・ミネソタ大学教育政策行政専攻(国際教育)にて博士号取得。1998年以降、名古屋大学、南山大学等を経て、2009年に立命館大学に赴任。2014年、サクロ・クオーレ・カトリック大学(イタリア)高等教育国際化研究センター客員研究員などを歴任し、2017年、立命館小学校・中学校・高等学校代表校長に就任。

自分と相手の 両方を尊重する異文化間コミュニケーションを研究・実践する

#14

大学時代の中国留学が国際教育研究の原点

初めて国際交流を体験したのは、大学時代。友人に誘われて大学祭実行委員になり、留学生と交流する企画を担当した時でした。1980年代後半当時、使命感を持って学んでいる多くの留学生と接し、異なる文化や言語を持つ人と触れ合う楽しさを知りました。その後、学内で留学生の生活をサポートしながら学内の国際交流を促進するサークルを立ち上げ、その活動に熱中しました。
中国語の先生から中国の南京大学への留学を勧められたのは、そんな時です。話を聞いた瞬間に「行きたいです」と即答しました。その時、留学を後押ししてくれた祖父の「20年後にはきっと中国は世界で重要な国になるだろうから、しっかり見てきなさい」という言葉が忘れられません。「今あるものだけで世界を判断せず、先を見据えてどう行動するかを考える」。その教えは、30年近く経った今も私の指針になっています。
中国での留学生活は、何もかもが日本とは異なり、刺激的なことばかり。毎日が楽しく、夢中で過ごした1年間が、異文化間コミュニケーションや国際教育を研究する原点となりました。心に残っているのは、親しくなった現地の学生から日本の戦争責任について問われたことです。それに応える中で、相手の考えを理解しながら自分自身の考えをしっかり伝える大切さを学ぶとともに、そうした対話が信頼関係を深めることも実感しました。

既存の価値観に捉われず情熱を持って探究してほしい

研究に足を踏み入れたのは、留学から帰った後です。海外で学んで視野を大きく広げるとともに、自分の考えを言葉にする力を身につけて戻った時、日本に再適応できなかったのがきっかけ。その経験から、異文化を経験することの教育的な意味について考えるようになり、それを学問的に追究したいという気持ちが膨らみました。目指したのは、研究者というより実践者。将来、研究したことを生かし、若者が異文化に触れて成長できる場づくりに貢献したいと思い、大学院へ進学しました。
日本で修士課程を修了した後、アメリカのミネソタ大学の博士課程へ進学。博士論文では、日本における国際教育の礎を築いてこられた先輩の研究者や教育者にインタビューし、その成果を検証しました。グローバル化の進展した現在、国際教育は国を挙げて取り組むべき重要課題として認知されていますが、当時はほとんど重視されていませんでした。その中で先達の方々が努力を重ねた中に理念や理想や工夫があり、その積み重ねによって今日の教育実践が成り立っているということを研究を通じて再認識しました。
研究者を志す若い人たちにいつも伝えているのは、「新しいものが理解されるには時間がかかる」ということ。だから今ある価値観や既存の枠組みに捉われず、情熱の赴くままに自分の関心を探究してほしい。それが、いつか新しい学問分野の創造にもつながっていきます。その一方で、独りよがりにならないように、相手に理解される言葉で伝える「コミュニケーション力」も磨いてほしいと思っています。

人材育成という新たな目標に 楽しみながら挑戦

立命館大学に赴任後は、研究だけでなく、異文化環境で問題解決能力を高める教育にも携わってきました。その一つとして、日本と台湾、韓国の学生を対象に、1週間ごとに3カ国で学ぶプロジェクト型海外プログラム、Asian Community Leadership Seminarの企画・運営をしています。最初はお互いにぎこちなかった学生たちが次第に信頼関係を構築し、安全・安心な学びの場でさまざまな議題を率直に語り合い、謙虚に学びあうようになります。プログラムを通じて異文化コミュニケーション力を高め、成長していく学生の姿を見るのが喜びです。
2014年には学外研究制度を利用して1年間、イタリア、アメリカ、台湾の大学に赴き、研究に集中する時間も設けました。さまざまな調査を行い、いくつもの論文を執筆して研究のおもしろさを再認識。研究者としても生き返ったような気持ちで帰国しました。
そして2017年からは立命館小学校・中学校・高等学校の代表校長を務めています。ますますグローバル化が進む今後、多様性を受容しながら自分自身も多様性の一部であることを認識し、自分と他者の両方を尊重できる。そんな器をもち、それぞれの分野で社会に貢献できる人を育てることを目標に、楽しみながら新たな挑戦に取り組んでいます。