国際教育推進機構 准教授

カンダボダ パラバート
ブッディカ

高校卒業後、スリランカから来日。立命館アジア太平洋大学を卒業後、名古屋大学の修士課程・博士課程を修了。2009年、愛知東邦大学非常勤講師、2013年、名古屋大学非常勤講師を経て、2013年、嘱託講師として立命館大学に赴任。2018年より現職。

異文化に触れた経験を糧に異国の言語・文化を研究する

#15

「世界を冒険したい」そんな夢を抱いて来日

小さい頃から活発で冒険が大好きだった私は、「いずれは父親と同じ軍人になり、世界のさまざまな国へ行って冒険したい」と思っていました。そんな夢への第一歩として日本を選んだのは、ほんの小さな偶然から。母国・スリランカの高校を卒業し、大学に進学するまでの期間に、好奇心から立命館アジア太平洋大学(APU)の進学説明会に参加したのがきっかけでした。自動車をはじめ数多くの日本製品が流通し、日本のテレビドラマが放映されるなど、スリランカで日本は身近な外国の一つです。私自身、高校で日本語を勉強したこともあり、遠く離れた日本に行くことに抵抗はありませんでした。
幸運にもAPUに合格。世界中から学生が集まる国際的な環境で学び始めて最も苦労したのは、日本語よりも英語の習得でした。授業はもちろん、国際学生とのコミュニケーションはすべて英語。母国である程度英語を習得してきたものの、最初はほとんど聞き取ることができませんでした。周囲の学生は、私と同じスリランカ出身の学生も含めて皆、言語だけでなく学びの面でも優秀で、それまで自分がいかに小さな世界で生きてきたのかを痛感したのを覚えています。それから学びに対する意識が大きく変わりました。
もう一つの外国語である日本語は、学ぶというより実践を通じて身につけました。中でも力になったのが、アルバイトです。来日した年の冬休みに、農家で「七草摘み」のアルバイトをしたのを皮切りに、レストランやファストフード店、居酒屋、英会話教室や自治体などでさまざまなアルバイトを経験。大学の枠を超え、社会のさまざまな人と接する中で日本語が上達していきました。

定説にない現象を捉えるのが言語研究の醍醐味

「軍人になりたいなら、博士号を取りなさい」。母国にいた時に進路について家族と話した際、そう母親に言われたこともあり、当初から大学院への進学は考えていました。けれど博士号を取得するまでにどのくらいの期間と研究が必要か、きちんと把握したのはAPUに来てからです。「これは長い道のりになるな」と覚悟を決めたのは、3回生の時でした。
学びの中で関心を深めたのが、「言語」と「文化」です。卒業研究では、スリランカとオーストラリアを対象に、発展途上の国と先進国における日本語教育の現状を比較検証しました。それ以来、一貫して文化や言語習得と運用について研究しています。
修士課程では、日本語と英語を外国語として習得したシンハラ語母語話者の複数言語(シンハラ語、英語、日本語)での会話におけるコミュニケーションストラテジーについて言語混合(language mixing)と言語切り替え(language switching)を中心に検証しました。さらに博士課程では心理言語学の領域にも関心を広げ、人はどのような情報をもとに文章や語彙を「聞く」「読む」「書く」「話す」といった言語処理を行っているのか、実験を通して明らかにしようと試みました。博士論文では、シンハラ語の語順と文処理に必要な情報について実証的な調査を行った現在はスリランカの公用語のひとつであるシンハラ語の母語話者や第二言語として英語を習得しようとしている日本語母語話者を対象に、実験を用いて言語処理を研究しています。
これまで誰も明らかにしていない現象を探究するのが、言語研究のおもしろいところ。定説とされている理論とは異なる結果を実験によって導き出し、「なぜなのか」を解き明かすのが研究の醍醐味です。

異文化に触れ世界が広がる経験を学生にも

来日して約18年、今ではスリランカに戻った時に「逆カルチャーショック」を感じるほど日本の生活に馴染んでいますが、最初は、あまりの環境の違いに帰りたくて仕方がありませんでした。それが変わったのは、APUで異文化理解について学んでからです。いつも「自分の国とは違う」と思っていましたが、授業を受け、「日本が『違う』のではなく、『違う自分』が日本に来たんだ」と発想を転換したことで、世界の見え方が一気に変わりました。
生まれ育った場所とは異なる国に行くと、新しいこと、経験したことのないものにたくさん出会います。それを前向きな気持ちで楽しむことで世界が広がり、研究者としても独自に視点を養うことができました。
現在は、研究や教育だけでなく、学生の異文化交流のサポートにも取り組んでいます。私自身の経験を生かし、これからグローバルに活躍する学生を育てることにも役立ちたいと思っています。