グローバル教養学部 准教授

石原 悠子

2010年、筑波大学を卒業、2013年、京都大学大学院文学研究科を修了。2016年にデンマーク・コペンハーゲン大学で博士課程修了後、アメリカ・プリンストン高等研究所の招聘研究員、東京工業大学の研究員などを経て、2019年、立命館大学グローバル教養学部に着任。

研究を楽しむ気持ちとオープンな心で拓いた道

#31

豪国・欧州、米国へ
グローバルに知見・経験を得る

日本人の両親の下、アメリカで育った私は、幼い頃から自分のアイデンティティについて考えることが多く、「自己とは何か」といった問いから、自然と哲学に興味を引かれるようになりました。
大学時代に留学したオーストラリアのモナシュ大学で哲学の面白さを知り、卒業論文では近代日本で活躍した哲学者・西田幾多郎について研究。卒業後は、日本哲学の研究で知られる京都大学大学院に進学しました。父親が物理学者で、漠然と「私もいつか研究者になりたい」と思っていたので、進学することに迷いはありませんでした。博士課程では、日本哲学と西洋哲学との比較研究をしたいと考え、見つけたのが、現象学で名高いデンマークのコペンハーゲン大学でした。3年間、同大学の主観性研究センターで、西田幾多郎とハイデガーの比較研究を行いました。
その後は縁あってアメリカのプリンストン高等研究所に誘っていただき、学際的研究プログラムの招聘研究員として赴任。AIやロボティクス、心理学など幅広い分野の研究者と一緒に研究する機会を得ました。今でも忘れられないのは、初めて皆を前に自分の研究を説明した時、うまく伝えられなかったことです。もともと「自分とは何か」という普遍的な問いから哲学を志したのに、専門性を追究する中で、いつしか専門家以外には理解できないことを研究するようになっていたと気づき、ショックを受けました。「これは私の目指すところではない」。そう思ってからは、以前にも増して多分野の人と関わるようになりました。それが現在の研究につながっています。

育児・生活の悩みを共有できる場があれば

立命館大学に赴任したのは、2019年。外国人学生も多く学ぶグローバルな環境を日本で実現するグローバル教養学部(GLA)に魅力を感じて応募し、採用されました。
帰国が叶ったのは、プリンストン高等研究所で同僚だった夫が賛成・同行してくれたことも大きかったと思います。その後出産し、1年半の育児休暇を経て、2023年4月に本格復帰しました。
これだけ長期の育休を取得できる制度が整っているのは、非常にありがたかった一方で、研究を途中で中断せざるを得ないことには焦りもありました。育休中も、オンラインで参加できる研究ミーティングで発表するなど、少しずつでも研究を続けることを心がけていましたが、自宅では、頭を切り替えるのも簡単ではありません。私が考え事をしていた時、幼いながらに娘がそれを察するのを見て、「これではいけない」と思い直しました。子どもの成長を見る喜びも大切にしたい。そう思ってからは「これがずっとは続かないから」と割り切るよう自分に言い聞かせていました。
復帰してからも、両立の難しさは変わりません。子どもが熱を出して、保育園に急遽迎えに行ったり、担当授業を休講やオンライン授業に切り替えなければならないこともありますが、GLAの先生方、そして学生たちにも理解してくれる雰囲気があるので、働き続けられています。
生活とのバランスを取るのに苦労する時、実感するのがコミュニティの大切さです。職場や地域社会の中に、働く人同士がプライベートなことを話したり悩みを共有できる場があればいいと思っています。

専門の追究と一般への発信
両方できる研究者を目指して

現在は、学術横断的なプロジェクトの一員として、「意識」について研究しています。心理学や数学、ロボティクスなど多様な分野の研究者と意見を交換するのは、非常に新鮮です。それが縁で、数学の研究者の方との共同研究も始まっています。また広く一般に哲学の面白さを発信していくことにも力を注ぎたいと思っています。専門を追究しながら、それをより多くの人に伝えていく。両方のバランスを取れる研究者を目指しています。
研究者を志す皆さんに大切にしてほしいのは、楽しむ気持ちと、オープンな心です。縁や出会いがあっても、そこに飛び込まなければ先は見えてきません。将来を思い煩うより、目の前の自分の関心事にしっかり向き合うこと。そうすれば道は拓けていくと思います。