総合科学技術研究機構 研究准教授

El Hafi Lotfi(エル ハフィ ロトフィ)

2011年、ベルギーのルーヴァン カトリック大学(UCLouvain)を卒業し、2013年、同大学院を修了。2014年、文部科学省の奨学金プログラムで、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)博士課程に入学。2017年、博士課程修了後、立命館大学に立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)の専門研究員として赴任。2019年に研究助教を経て、2023年同大学の総合科学技術研究機構の研究准教授となり現在に至る。3人の子どもの父親として、家族と過ごす時間を大切にしながら教育・研究にも尽力。

国際経験を積むために進学した日本で、研究者の道へ

#33

開発に留まらず広い視野を得るため
日本の大学院への進学を決意

ベルギーで生まれ育ち、国内で名門として知られるルーヴァン カトリック大学・大学院(UCLouvain)で、メカトロニクスを学びました。当時は企業で研究開発の仕事に就きたいと考えており、修士課程2年生の時には、テクノロジープロバイダーのintoPIX S.A.でインターンシップも経験しました。働きながら、同社と共同で、4K/8Kビデオ配信用の圧縮技術について研究し、修士論文を執筆しました。そのまま就職する道もありましたが、実際に研究開発部の仕事を知って、湧いてきたのは、「もっと広い視野を持って仕事をしたい」という思いでした。そこでインターンの途中でマーケティング・セールス部門に異動。さらに約半年間、国際ビジネスとマネジメントを学ぶ社外プログラムも履修しました。
インターンシップを終え、改めて進路を考えた結果、まずは国際経験を積むために海外で挑戦しようと決意しました。中でも日本を選んだのは、幼い頃に日本の漫画やテレビゲームが好きで、親しみを持っていたことに加えて、「ロボット先進国」というイメージが強かったからです。その後国内試験を経て、2014年、文部科学省の奨学金プログラムで、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の博士課程に進学しました。

ロボットコンテストでの出会いが
就職の転機に

来日後はロボティクス研究室に所属し、新たな研究をスタートさせました。当初苦労したのは、日本人学生とのコミュニケーションです。日本人学生は、豊富な知識と高いスキルを持っているにもかかわらず、教授の指示に従うだけで、主体的に行動したり、自分のアイデアを提案したりしないことに、最初は戸惑いを覚えました。本音が見えないために、親しくなる糸口をつかめず、寂しい思いをすることもありました。
研究では、眼の角膜に投影される画像を認識し、ヒトが見ているものを捉えるという新しい視線追跡システムの構築を試みました。角膜に映る画像は非常に粗いため、そのままでは何が映っているのか認識できません。そこでディープラーニングを使って、画像を認識する手法を考案しました。
また研究室の大学院生とチームを組み、それぞれの専門を活かしてロボットを製作し、国際的なロボットコンテストにも出場しました。転機は2017年、愛知県で開催された世界大会「Amazon Robotics Challenge」に出場した時、立命館大学情報理工学部の谷口忠大先生(当時)と出会ったことです。谷口先生にお誘いいただき、立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)のプロジェクトに専門研究員として加わることになり、立命館大学に赴任しました。

1日のスケジュール(取材時)

ライフライン・チャート

  • A

    21歳(大学生)
    ベルギーの名門大学で最終学年に失敗し、自信と自尊心を完全に失い、孤立と挫折を味わい、人生のどん底に陥る。

  • B

    25歳(研究生)
    修士号取得後、MEXT奨学金で日本へ渡り、過去の苦難を乗り越え、新しい世界での新たな始まりとなる。これは人生の転機となる。

  • C

    26歳(博士課程)
    未来の妻と出会い、一目惚れし、彼女との最も甘美な思い出を作る。彼女のおかげでより良い人間に成長する。

  • D

    29歳(専門研究員)
    親しかった祖母がベルギーで亡くなり、最期を見届けられなかったことを後悔し、ホームシックに苦しむ。これがきっかけで人生の優先順位を再考する。

  • E

    30歳(研究助教)
    愛する彼女と結婚し、2人の息子の父親となることで、人生観が大きく変わり、責任の重さと意味を改めて感じる。

  • F

    34歳(研究准教授)
    若くして研究准教授に昇進したが、ストレスによる健康問題と家庭・仕事の責任が増し、息子たちと過ごす時間が不足していることに悩む。

  • G

    35歳・現在(研究准教授)
    待望の娘の誕生を控え、健康を徐々に取り戻し、仕事と生活のバランスを取りながら、新たな挑戦に向けて再び長期的な計画を立て始める。

いつかAIやロボットなどの
国際政策の策定に携わりたい

本学では、人工知能について研究しながら、学生の研究指導も務めるようになりました。博士課程1回生の学生が、国際学会に論文を発表することになり、夏休み期間中、つきっきりで研究と論文作成をサポートしたことがあります。その甲斐あって、電気電子・情報工学関連の世界的な学会「IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)」で、彼の論文が300報もの論文の中からベストペーパーに選ばれた時は、自分のことのように嬉しかったです。
博士課程の時に出会った日本人女性と結婚し、3人の子どもに恵まれてからは、人生の優先順位が大きく変わりました。独身時代は、研究や学生の指導に休日を費やしても気にしませんでしたが、今は家族と過ごす時間を大切にしたいと考えています。人生の選択肢は、一つではありません。今後も専門性を究め、いつか社会的なインパクトをもたらすために、国際機関などで、人工知能やロボットに関わる政策の策定に携わりたいという夢を描いています。
研究者を目指す学生には、「自分自身の研究テーマを見つけてください」と伝えたい。指導教授に頼るだけでは、研究者の道は開けません。自分の研究テーマを追求し、自ら研究費を獲得できるようになることが重要です。それに加えて強調したいのは、「道は一つではない」ということです。かつて私がインターンシップを経て進路を変えたように、人生は多くの可能性に満ちています。だから恐れず自分の道を見つけてほしいと思っています。