中世ヨーロッパで生まれたキリスト教の一派である「ヴァルド派」は、1184年に「異端(正統から外れていること)」とされてからも、現在にいたるまで活動を続けています。そんなヴァルド派が中世期に書き残した文書の数々は、まだほとんど解読されていません。当時の彼らは、一体どのようなことを考えていたのでしょうか。
ここで紹介する「崇高なる読誦」という文書は、今から500年ほど前に、ヴァルド派信者たちが、自らの思想を詩の形にして記したものです。今では使われていないアルプス地方の方言で書かれており、辞書も、文法書もありません。そのため、同じ時代にアルプスの周辺地域で使われていた別の言語(中世オック語、中世フランス語、ラテン語など)と比較しながら、一単語ずつ解読を進めました。
そして分かったのは、中世のヴァルド派信者たちが、「カトリック教会から迫害されている自分たちこそが聖人であり、正当な使徒の後継者である」と考えていたことです。ヴァルド派は、聖書の記述を非常に重要視する宗派と言われているのですが、肝心の聖書を読み違えていたりすることもわかってきました。このように、ヴァルド派が残した文書をひも解くことによって、知られざる思想が少しずつ明らかになってくることでしょう。