THE INFLUENTIAL READS⽴命館⻄園寺塾で「出会えてよかった1冊」

1期⽣金井 謙介さんの
「出会えてよかった1冊」

成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート

ドネラ H.メドウズ【著】 ダイヤモンド社

発表されて50年、僕の人生とパラレルであり、西園寺塾で学んだ10年前も今も、受容の変遷は見えやすい。原初的シミュレーションを使って地球システムの未来予測に挑戦した先駆的功績は勿論だが、その手法がリアリティを伴う大衆性を獲得した点に変革への重要な萌芽があった。反面その点が、成長経済の陰で終末論の派生としての消費にも繋がる。そして現在。

パリ協定、SDGs採択、異常気象、この10年で限界のリアリティは速やかに世界規模の世論支持を得たが、それが本質的な変革に繋がるか、消費の海に溺れるか、未だ分水嶺にいる。ローマ・クラブは新たに「小出し手遅れ」「大きな飛躍」という対立シナリオを提示したが、結局、フロンティアを消尽してなお獰猛な資本主義をどのように変質させるかが問題なのだ。ボールディングに倣わずとも狂気と正気を天秤に掛けてバランスさせる人間の性とは親和性抜群であり、「小出し手遅れ」を避ける道は少ないものの、零ではない。

10年前はまだ東日本大震災の記憶が生々しく、読み終えて降車した西荻窪駅は、あの時の薄暗さを思い出させた。それは来るべきディストピアでもあり、かつての日常でもある。技術が進歩しただけ人は豊かさを希求し、イタチごっこは限界へのスピードを加速させる。あの時感じた無力感は棘のように刺さったまま、ただ、小さな実践や思考の先に別の世界線を描ける可能性だけは、この10年で信じるようになった。

2024年12月17日

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この本を選んだのは…

1期⽣ 金井 謙介さん Kanai Kensuke

株式会社竹中工務店 東京本店設計部 設計第2部長