THE INFLUENTIAL READS⽴命館⻄園寺塾で「出会えてよかった1冊」

9期⽣久米 保子さんの
「出会えてよかった1冊」

アダム・スミス―「道徳感情論」と「国富論」の世界

堂目 卓生【著】 中公新書 

人間は「同感」する能力を持つ社会的存在であり、「胸中の公平な観察者」の是認の元、フェアプレーのルールに則って経済活動を行うことで、富が人と人をつなぎ、社会全体が「見えざる手」に導かれて繁栄する、とアダム・スミスが『道徳感情論』と『国富論』を通して唱えた思想がスッと自分に染み込むように理解できる一冊である。本書を読んだ後にはアダム・スミスという人物が経済学者というより、人間の感情を起点に行動と社会秩序を紐解き、そこから経済のメカニズムを洞察した、人間を深く理解する哲学者だったという印象に変わる。 
そして、市場経済を作っているのは私たち人間であり、経済と道徳が密接に関わっていることを再認識させられる。現在、資本主義経済の限界が叫ばれるが、アダム・スミスが生きていたら、これも私たち人間が利己心を制御することなく追求し続けたことで市場を歪め、成長が妨げてきたからだと指摘されるに違いない。  
市場経済を良い方向にも悪い方向にも動かしていくのは、私たち人間である。 社会全体の持続的発展には、社会を構成する私たち一人ひとりがフェアプレーを意識し行動することが重要だと改めて認識させられる。約250年前の先人の思想には、現代社会を生きる私たちに対しても多くのメッセージが詰まっている。 
自らの判断や行動が他者の「同感」を得られるか、「胸中の公平な観察者」から自らの行動を客観的に見ることの大切さを気づかせてくれた。折に触れ読み返したくなる一冊となった。
2024年12月17日

231218_kume2 

この本を選んだのは…

9期⽣ 久米 保子さん KUME Yasuko

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 代販営業統括部 グループ長