教員紹介
FACULTY MEMBERS
メディア社会専攻
大澤 聡 教授
OSAWA SATOSHI
- 専攻
- メディア社会専攻
- 専門分野
- メディア史、思想史、出版論、読書論
研究テーマ
メディア史(おもに近現代日本の言論環境)
おすすめ書籍
ルートウィッヒ・ウィトゲンシュタイン『哲学探究』(鬼界彰夫訳、講談社、2020年)
哲学者ウィトゲンシュタインの後期の代表作です。「言語ゲーム」という独自の概念によって世界を分析し尽してみせるのだというプロジェクトに貫かれています。ごく短い断章の反復がスパイラル状にこちらの思考を運んでくれます。ブロックや石をひとつずつ積みあげていくような感覚もある。難解だけれど語彙や文体はシンプルだし、なにより提示される日常的な例がことごとくばかばかしくてチャーミング。哲学をぐっと身近なものにしてくれます。ルールをでっちあげつつ謎の遊びに興じる子供たち、手帳に記す個人的なマーク、痛いフリができない犬……。
学生のとき、赤と緑でデザインされた函が印象的な『ウィトゲンシュタイン全集8』(藤本隆志訳、大修館書店、1988年)を買ってちびちび読みました。その後、丘沢静也訳(岩波書店、2013年)や、上にあげた鬼界訳など新訳も出ました。いまでもたまにページをひらくと、やっぱりわからないなりに、まったく別領域の仕事のアイデアを触発してくれます。
学生時代の思い出
「なにをするにしても10年やりつづけられたなら、その道でいっぱしの人間になっていますよ。一流ではないかもしれないけれど。いいですか、10年ですよ、10年。一瞬ですって」――前後の文脈は記憶にありません。何の講義だったか、誰だったのかすら覚えていない。もっとも、空き時間にてきとうに潜りこんだ大教室だったので知りようもないのでした。ネットで検索すればいくらも転がっていそうな教訓だし、とくに教え諭す雰囲気ですらありませんでした。なにより、教員のネクタイはディズニー柄で説得力に欠けていた。けれど、このフレーズだけはわたしの頭の片隅にひっかかりつづけ、ふとしたはずみで回帰してくるのです――「10年ですよ、10年」
10年とちょっとが経つころ、大学の教員になって最初の卒業生を送り出すメッセージにこのエピソードを使ったのでした。あれからさらに10年とちょっと経ってここにいます。そして、3周目の「10年」をすごしています(たしかにどれも「一瞬」でしたが、「いっぱしの人間」になれたとは思えません)。
現在の学問分野に決めた理由
『月刊コロコロコミック』(小学館)というマンガ誌があります。小学生時代、700ページにもなる大部のそれを毎月夢中になって読んでいました。ビックリマンやファミコン、ミニ四駆など1990年前後の少年カルチャーの最新情報がそこにはみっちり詰まっていた。ある日、酔っぱらって気のよくなった父が最新号を買ってきてくれました。けれども、それは外見そっくりのライバル誌『コミックボンボン』(講談社)でした。落胆しましたが、もったいないからとぱらぱらめくるうち、気がつけば『コロコロ』との誌面比較をしていました。これはあれに対応させているのか、ここはこっちのほうがおもしろいな……といったぐあいに。最終的には、なぜこれではなくあれを僕は毎月購読しているのだろうかと、自分の志向を覗き込むことにもなるのでした。
言論にせよ文芸にせよ、コンテンツ(=内容)読解とメディア(=形式)分析とを並走させるわたしの研究や批評のスタイルの遠因は、この手の幼少期のいくつもの体験――亡くなった父はなにかにつけ「××じゃないほう」ばかり買ってくるのでした――にあるのかもしれません。