教員紹介
FACULTY MEMBERS
人間福祉専攻
黒田 学 教授
KURODA MANABU
研究テーマ
障害のある子どもと家族の地域生活支援、特別ニーズ教育および障害児福祉に関する国際比較研究(ベトナムなどの東南アジア、ポーランドなどのEU諸国)
おすすめ書籍
藤えりか『海を渡った「ナパーム弾の少女」―戦争と難民の世紀を乗り越えて』岩波ブックレット、2023年
本書が取り上げるファム・ティ・キム・フックさんは、1963年、当時の南ベトナムに生まれました。植民地支配による南北分断、東西冷戦下の米国の介入政策を背景としたベトナム戦争が最も激しかった頃です。
そのキム・フックさんが9歳の時、タイニン省チャンバンでナパーム弾(焼夷弾の一種)を浴び、彼女の逃げまどう姿をとらえた1枚の写真が世界中に配信されました。その写真はピューリッツァー賞などを受賞し、国際的な報道写真として注目されてきました。
本書はキムフックさんのその後の波瀾万丈の人生を描き出し、人生の背後にある国際情勢、難民問題を取り上げ、戦争によって翻弄された人々の姿を通じて、平和の大切さを静かに訴えています。
学生時代の思い出
学生時代、もうずいぶん昔のこととなりました。1983年に産業社会学部に入学し、素晴らしい先生方や仲間との出会いがあり、充実した学生生活を送ることができました。
当時の産業社会学部の基本棟は学而館で、地下には生協食堂がありました。学生数は現在の半分程度、1学年400人という規模で、ジェンダーバランスは、男子学生が圧倒的でした。1回生では現在と同じように基礎演習がありましたが、1クラス50名はいたのではないでしょうか。今とは、ずいぶん様子が異なるだろうな、と想像してもらえると思います。
ただ、今と同じなのは、全国から学生が集まっていたこと。クラスでの会話は初めて聞くような言葉、独特の言い回しが聞こえ、大阪出身の私にとっては毎日、異文化体験をしているような感覚で、大いに刺激を受けました。今でいう「ダイバーシティ&インクルージョン」を体感していたということです。友人の下宿で朝まで飲み明かしたり、熱く議論を交わしたり、派手さはまったくなかったですが、活気のある日々を過ごすことができました。産社での学びは一生の宝です。
現在の学問分野に決めた理由
専門分野を問われると幅が広いので、説明しにくいところがありますが、学生時代から地域社会に関心がありました。高度経済成長期に大阪で生まれ育った私は、公害問題や都市の過密、生活インフラの不足など、地域社会の変容とそれへの対応不足を体感していました。地域社会は人々が暮らす「場」に加えて、人々が交流し合い、人生を豊かにするという「居場所」であり、人間発達の「土壌」であることをなんとなく感じていました。そんな経験知のようなものを、大学での学びを通じて、論理として、科学として、ずっと志向してきたのだと思います。
卒業論文は、「保育の社会化と保育運動」というテーマで、当時先進的な福祉行政、保育実践に取り組んでいた大阪府下のS市を事例に、子どもは保育園という施設だけで育つのではなく、地域社会の共同によって成長・発達することを、地域の保育運動、子育て運動に着眼してまとめました。それ以来、障害のある子どもに対象を絞りつつ、放課後・休日の地域での過ごし方、現在の放課後等デイサービスを研究の対象として、地域福祉を専門分野としています。
このような地域社会というローカルな対象に加え、ベトナムなどの東南アジア、欧州などの障害児教育・福祉を対象にグローバルな視点からの比較研究を行うようになり、いわゆるグローカル(global and local)な研究スタイルをとるようになっています。