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2011年度研究会報告

「グローバル化とアジアの観光」研究会(2011.4.23)

テーマ 「マレーシアのペナンでのネパール人労働者探し」
報告者 山本 勇次(大阪国際大学現代社会学部)
報告の要旨

 2011年2月21日~3月1日、マレーシアのペナンにおいて「ネパール人出稼ぎ労働者」の実態調査を行った。これは、2010年2月26日~3月5日まで実施した第一回目の調査に次ぐものである。報告者は、長年ネパールの観光都市ポカラで文化人類学的調査をするなかで、ポカラの若者達が外国へ盛んに出稼ぎに出かけるのを知っていたので、藤巻正己教授から「マレーシアにもたくさんのネパール人が働きに来ている」ことを教えられて、是非、彼らを調査させてほしいと研究所にお願いして開始された調査なのである。しかし筆者が本務校で役職をしている手前、去年も今年もペナン滞在が一週間と短い。だから被調査者相手にじっくり「ラポール」を構築した後に聞き取りをする悠長な方法を取れない。幸運にもペナン出身のマレーシア人留学生を現地調査アシスタントとして雇い、彼の車でペナンの街を流しながら、スノーボール方式でネパール人労働者をハンティングする手法を取らなければならない。

 第一回目の調査も、第二回目の調査でも、質問項目を羅列した用紙を持ち込んで、それへの回答を聞き取りして、こちらで回答を記入していくという調査方法は変わらない。しかし、調査の実施場所は第一回と第二回でかなり変えている。第一回では、職場で見つけたネパール人労働者(群)と約束を取り付けておいて、仕事帰りの彼らを寮に訪問して、そこで順番に面談した。そこで同室者に“見守られながら”一人ひとりが個人情報を語ってくれるのであるが、そこにはプライバシーの尊重がまったくない。そうかといって、周囲に気兼ねして回答内容を変えるという姑息さは、ネパール人に限ってないと筆者は信じるのであるが。しかし第二回目の調査では、もう少し個々の“プライバシー”を尊重したアンケート調査方式を採用することにした。つまり、彼らの寮やアパートに出かけるのではなくて、こちらから車で彼らを迎えに行って、筆者が滞在するホテルに連れてきて、自分の部屋に一人一人順番に面談をする方法を取ってみた。これは言語学者がホテルにインフォーマントを呼んで調査するやり方とまったく同じである。

 二回目になってよく理解できたが、マレーシアのネパール人はよく働く。殆どが1カ月に1日か2日しか休暇を取らず、毎日朝9時から夜9時まで12時間の労働に耐えている。しかも、自分のペナンでの生活費を切り詰めて、平均で年額4千リンギット(12万円)程の金をネパールに送金している。あたかも労働ロボットの如き姿は、筆者がネパールで長年見なれてきたヒマラヤを仰ぎながら、ぼんやりと遊びながら仕事をする生活ぶりではない。彼らはペナンに働きに出て変わったのか、それともネパール人全体が勤労意欲を身につけ出したのか判定するにはマクロ研究も必要であろう。筆者の帰国後、ペナンで仲良くしたネパール人の一人から東日本大震災の3日後に大学に筆者の生死を問いかける国際電話があった。ペナンで培った彼とのラポールを、何より嬉しく思ったことを明記しておきたい。

山本 勇次

テーマ 「サバ州のホームステイ事業―クンダサン・ラナウ地区の1村落の事例―」
報告者 江口 信清(立命館大学文学部教授)
報告の要旨
 

 報告の目的は、ホームステイ事業が関わるコミュニティ・ベイスト・ツーリズムの「金の卵を産むめんどり」としての実態について、この種のツーリズムの先進国・マレーシアのサバ州で予備的に調べた結果を報告し、議論することであった。これまでホームステイに関する主たる研究は、ゲストが文化的にどのように影響を受けるのかといったものが大半であり、客を受け入れるホストやホストの地域コミュニティに焦点を当てたものはわずかしかない。また、ホームステイと一口に言っても、国や地域によって違いがあり、互いに比較したものはほとんどない。

 マレーシアはアジアの観光先進国で、多様なツーリズムを展開してきた。農村地域でのホームステイ事業は、新たな収入の機会を創りだし、都市・農村間経済格差を縮め、農村の住民に誇りを感じさせ、国全体で経済発展に貢献できる。新たな特別な設備を要せず、既存の資源を巧みに利用するホームステイ事業は大きく伸びつつある。調査村があるサバ州のホームステイ協会は、国内外からの客の誘致活動とホームステイ事業を行う村落でのインフラ整備活動に力を入れてきた。具体的には、マレーシア国内だけではなく、日本、韓国、米国、カナダ、インドネシア、タイ、ヴェトナムなどでの誘致宣伝活動、いくつかの村落での祭りの開催、インフォメーション・センターの建設、突堤の建設、公衆便所の建設、溝の建設、街灯の設置、休憩所の建設などである。これらの多くは、コミュニティ全体に大きく貢献するものである。

 調査は、州都のコタキナバルから80kmほど離れた高原に立地し、東側にコタキナバル山(4095m)が聳えるシニシアン村で行われた。村には28のホームステイ・ファミリーと44部屋がある。シニシアン村には2005年の時点で768人、120世帯があり、全体の23.%余りがホームステイ・プログラム参加している。参加希望者は増える傾向にあり、先行するプログラム参加者が成功したのが動機となっている。事例としたファミリーについての紹介をここでは省くが、本村でのホームステイ事業の成功の要因のいくつかは次の諸点ではないかと考えられる:政府の強力な支援、リーダーの存在とフォロワ―の存在、わずかの投資と既存の資源の有効利用、女性の積極的な参加、プライベート空間とホームステイ空間の明確な切り分けなどである。コミュニティの支援・協力については今の段階では分らない。

 今後、今回の調査結果を踏まえて、現地でホームステイ事業参加者全員の参加の動機と現状、ホームステイ事業に参加していない人たちと事業の関係、どういった点でコミュニティ全体が利益を得ているのか、というようなことを調査し、同時に、ホームステイとコミュニティについて扱った既存の研究成果と比較していく予定である。参加者は14名であったが、積極的な質疑応答が行われた。

江口 信清

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