TOP

09

オンライン化が進む中での
インフォーマルコミュニケーションのあり方とは

情報理工学部
谷口 忠大 教授

Contents

大学の授業のこれから

ロナ禍は大学の授業に
どのように影響しましたか?

前期の授業はオンライン化し、制約がある中でゼミ活動もせざるを得ませんでした。情報系の研究室においては、理論的な研究はできましたが、ロボットやヒューマンロボットインタラクション、人と人とのコミュニケーションの研究はなかなか苦戦しましたね。製造業がオンライン化しにくいのと同様、現在の技術ではオンライン化できるものとできないものがあります。その切り分けの必要性を改めて突き付けられたと感じました。


ンライン授業において感じた
課題はなんでしょうか?

雑談や立ち話といったコミュニケーションができないことです。コミュニケーションというものは送り手と受け手の間での情報伝達、つまり通信とみなされがちですが、それだけで人間のコミュニケーションは成り立っていません。この見方はシャノンウィーバー型のコミュニケーションモデルと呼ばれることもあります。Zoomなどでは合目的的に「この時間でこの話をしましょう」と設定して、何かを伝えようとする。話し手と聞き手がいて、それが一本の音声チャンネルで繋がれる。そうではなく、いわゆる日常の「ダベリ」の時間では同時進行でいくつもの会話が起こったりします。これがふと話しかけるような会話を支えて、人間関係の構築に貢献しています。これまでは立ち話や飲み会などで行われてきたようなインフォーマルなコミュニケーションによって、研究室や会社など組織を円滑に動かす仕組みが作られてきました。理系の研究室にはチームプレイがとても重要ですから、オンライン化における研究室マネジメントという視点も含めてこの課題を考えていかねばならないと思っています。


れらの課題を踏まえて、
後期の授業はどのように進められる予定ですか?

後期は学生に対し、もう一歩踏み込んだサポートをしようと考えています。研究活動は、それがいつ成果や意味を成すかわからないという点で不確定な要素を抱えています。そのため学生にモチベーションがないと前に進めなくなってしまいます。心理的負担がかかって創造的な研究ができなくなる学生に対してはサポートが必要だと思います。コミュニティの一員であるという状況自体がそういった学生を救う面もありますから、一言二言でも声を掛けて繋がれる場を設けたいと考えています。Discordというチャットアプリを使用して、たくさんの部屋を作り、学生が自由に音声で繋がれる仕組みを導入しようと検討中です。

ポストコロナのAI・ロボティクス分野はどう変化していくか

専門の
AI・ロボティクス分野において、

コロナの影響はどう感じますか?

コロナ禍が起こる前から、社会的なブームとして発展に向かう動きがありましたから、引き続き進めることになるでしょう。その意味ではコロナ禍に振り回されず粛々と研究を進めるべきだと思います。コロナ禍に関連してということでは、テレオペレーション(遠隔操作)、テレイグジスタンス(遠隔存在)の研究開発需要が伸びるでしょう。テレイグジスタンスは、実世界において自分自身の分身であるアバターを用いて遠隔の場所に存在するといった概念です。リアルでの活動から、遠隔操作ロボットやテレイグジスタンスに代替していったときに、「足りないものの議論」、そしてそれを埋める情報技術の開発、そして人間のコミュニケーションのより深い理解が今後の社会には欠かせないでしょう。


足りないものの議論」とは
どういうことでしょうか。

オンライン化・遠隔化が発展する際には、すべてをオンライン化・遠隔化するのではなく、そこで失われる可能性のあるインフォーマルな部分に目を向けなければなりません。例えば、バーチャルで修学旅行に行こうという動きがありますが、修学旅行の本質は「現地にあるものを見聞する」ことでしょうか?確かにフォーマルな目的はその場所に行って現場を学ぶことですが、インフォーマルな部分を考えると、夜中に友達と行う枕投げなどが、人生には重要だったりしますよね。フォーマルなものが、実はインフォーマルの上で成り立つことが世の中には往々にしてあります。人間の本質的な部分により近いのはインフォーマルな部分でしょう。オンライン化・遠隔化を進める際には、インフォーマルなコミュニケーションに目を向け、オンライン化・遠隔化しないものとのバランスを議論することが重要だと思います。


ンフォーマルな
コミュニケーションを

いかに残すのかが
これからの課題だと。

そうですね。ちょっとアレな表現ですが、私はコミュニケーションにおいては「殴られる距離」が大事だと思っています。相手にいらないことを言うと殴られるかもしれない、つまり生命的な危険性が存在しうるところに、コミュニケーションの基礎を形成する、ある種の根源的な社会性の基盤がある気がします。殴られる距離にいると、表情を伺う、謙虚になるなど生物学的なコミュニケーションが起こります。コミュニケーションは言語だけではありませんからね。しかし、オンラインでは、殴られない距離=安全圏を保ち続けてしまう。交わされる会話も、オンラインとオフラインでは異なるものになるでしょう。その違いをきちんと要素分解し、長所と短所を理解したうえでオンライン・オフラインを選択することが必要になるのではないでしょうか。リアルに留まり続けることが良いわけではなく、オンライン化も行ってみて、足りないものが何かを考える。現実を見て仮説を立てて、オンラインかオフラインかの二極化ではなくコミュニケーションの細部を発展的に考えることが重要なのです。


これからの大学にできること、大学でできること

ストコロナの時代、
大学の役割は
どうなっていくのでしょうか? 

今回の一連の流れで感動したのは、目に見えないウイルスや感染症の拡大に対して社会全体で対応してきたということです。感染症もそうですが、目に見えないものは学問があって初めて見えてくるものです。現実の現象を予測するのは学問の仕事。今回、国内での感染者が少ない段階から社会全体が動けていたことに、さまざまな学問の力を感じます。だからこそ、エビデンスを重視した学問を続ける重要さを改めて実感しました。学問はそれを支える人間の教育がそうであるように、急には生み出せず、農業のように少しずつ育てていかないといけないものです。コロナで社会情勢が変わっても急に方向転換をするのではなく、こつこつと積み上げていく必要があるでしょう。また、今後AIやIT分野が発展する上で、ICTツールを使いこなすだけでなく、基礎に立ち返り議論を行い弁証法的思考を持った人材が未来社会を形成していく上で必要になります。大学にはそういった思考ができる人材をいかに輩出するかが問われるでしょう。


は、学生の皆さんはこれからどう
動けばよいのでしょうか?

コロナ禍以前から旧来の日本の新卒一括採用や終身雇用などの制度限界は見えてきていましたが、ポストコロナの社会においては、自分の判断できちんと考え自らの人生を選ぶことがますます重要になると思います。そのためには学ぶこと、知識をつけることが鍵になるでしょう。知識は強さになります。その知識を持って社会へと出て、さらに経験を積んでほしいと思います。社会人になっても勉強は続きます。大学時代に勉強の仕方のノウハウを身につけておくと吸収の速度が格段に上がるので、社会人になってからも役立つと思います。

取材日:2020年10月5日

Message

コロナ禍でずっと家にいると
心身が不調になりやすいです。
メンタルを大切に。
ポジティブでないと
何事も始まりません。
今は
「Take it easy、気楽にいこうぜ」
くらいをモットーにして
行きましょう。
自分という存在を
過小評価することなく、
厳しい状況が続きますが、
なんとか生き抜いて
もらいたいと思います。

Profile

谷口 忠大教授

所属 / 情報理工学部 情報理工学科

専門分野 / 統計科学、認知科学、ヒューマンインターフェース・インタラクション、知能情報学、ソフトコンピューティング、知能ロボティクス、感性情報学、知能機械学・機械システム
※クロスアポイントメント制度を活用して日本で初めて民間企業にも勤務する大学教員であり、ビブリオバトルの考案者。

MORE INFO

Other articles

ページの先頭に戻る