サイコロペディア
  • HOME
  • もう顔にしか見えない!? 「パレイドリア現象」で知るココロの不思議

認知心理学もう顔にしか見えない!?
「パレイドリア現象」で知るココロの不思議

2022.03.31

誰もが「あるある!」とうなずくパレイドリア現象をテーマに、ものを見る、音を聴く、世界を認識する時の心の不思議をご紹介します。

今回の案内人
高橋康介先生
  • 「∵」この記号、何に見えますか?
  • ただの記号なのに、ほとんどの人が顔に見えるはず。これは「パレイドリア現象」という心理現象の一種です。
  • 最新の研究では、同じ顔でも〇〇に見える人の方が多いという結果が出ています。

顔じゃないのに視線がある!? パレイドリア現象とは

まずはこの画像を見てください。

この画像の、中央やや右寄りの部分……、よく見ると、人の顔に思えませんか? 言われるまでは何とも思わなかったのに、一度気付くともう顔にしか見えない! なんて経験、誰にでもあるはず。実はこれ、「パレイドリア」という心理現象の一種なんです。

「パレイドリア現象の面白いところは、一度認識してしまったら以前の心理状態には戻れないこと。『ただの模様だ』と自分に強く言い聞かせても、顔だと認識する前の状態に戻ることは極めて難しいのです。しかも、パレイドリア現象によって生まれた“顔”から、表情まで読み取ってしまう。実に興味深い現象です」(高橋先生)

先ほどの画像も同様。ただの模様のはずなのに、なんだか悲しそうな、驚いているような表情に見えてしまうから不思議です。

さらに、こんなユニークな実験例も。この画像をご覧ください。

上のコンセントを見ていると、どうしても左側が気になる……。という人が多いのではないでしょうか。

 「何度も言うように、パレイドリア現象によって生じた“顔”はただの模様です。にもかかわらず、その顔がどこかを見ているように感じる場合、人間はつられて同じ方向を見てしまう、という結果が出ています。もともと私たち人間は、相手の顔を見た瞬間に、表情や視線といった情報を自動的に読み取るようにできている。とりわけコミュニケーションにおいて視線は重要な役割を持っています。話者の視線に意図せずつられてしまうことを、視線手がかり効果(Gaze Cueing Effect)や共同注意(Joint Attention)と呼びます」(高橋先生)

ということは私たちの心は、偽物の顔をリアルな顔だと感じ、目を“見て”、コミュニケーションを取ろうとしているのでしょうか。その答えも、そもそもなぜこのような心理現象が生じるのかも、まだ判明していないとのこと。好奇心が刺激されると同時に、心理学の奥深さを感じますね。

心霊写真もパレイドリア?
実験でココロの不思議を解き明かそう!

顔でないものが顔に見えるものの例として、「心霊写真」や「人面魚」も挙げられます。高橋先生によれば、これらの正体もパレイドリア現象なんだとか。

 「もやもやとした、特定の形をなさない模様が何に見えるかというのは、見る人によっても異なります。例えば月のクレーターは日本ではうさぎに見えると言われます。これはパレイドリア現象の効果ですね。しかし、地域によってはロバに見えたり、本を読むおばあさんに見えたり。同じ『月』を見ていても、いろいろなものが見えてしまうのは、パレイドリア現象の面白いところです」(高橋先生)

実はとても身近なパレイドリア現象。このように、私たちの暮らしに密接した心理現象や心の働きを明らかにするのが、高橋先生の専門である「認知心理学」です。

 「『認知』というのは、何かを認識したり、理解したり、選んだり決めたり行動したりする時の心の働きだと考えてください。一見哲学の範疇のようですが、認知心理学のポイントは実証、つまり実験を通して分析すること。私が所属する立命館大学では、知覚(どのように見えるのか、聞こえるのか)と運動(どのように体を動かすのか)、思考・推論(どのように考えるのか)、さらには感情や好みなどの関係を、実験を通して考えています。パレイドリア現象をはじめ、トピックはなんでもOKですよ」(高橋先生)

パレイドリア現象の研究でも、たくさんの実験が行なわれています。たとえばパレイドリア現象によって何が観察できるか、といった実験では、顔以外に動物、空想上の生物、物体、幾何学模様などいろいろなものが挙げられましたが、突き詰めた結果、8割以上の回答が顔や生きもの(動物)でした。また、視覚検出課題という専門的な方法を使った実験では、まったく同じものを見ているにもかかわらず、∵をただの記号だと思って見ている人たちよりも、∵を顔だと思って見ている人たちの方が、見つけやすいということがわかりました。

高橋先生はこのような実験から、脳の中で作られるものの見方や意味が、認知や知覚に大な影響を与えていると考えています。

 「認知心理学の研究者には、脳を測る実験を行っている人もいます。自分で脳を測らなくても、脳科学や神経に関する専門家と一緒に、MRIやNIRSという脳を測る装置などを使って研究しているんです。物をどう見るのか、どう行動するのかを考えるとき、現代では脳を無視して考えることは難しい。このことからも、心と脳の密接な関係が分かりますね」(高橋先生)

認知心理学の研究成果は、マーケティングや商品開発の場にも反映されています。脳科学の知識をマーケティングに応用するニューロマーケティングの場で、たとえば「WEBページのどこに視線が集まるか」「効果的な広告位置はどこか」といった問題に、認知心理学が応用されているのです。パレイドリア現象をはじめ、人間の心の働きを研究していくことは、秘密のベールに包まれた脳の謎をひも解くことにもなるのでしょう。

ようこそ、総合心理学・人間科学の世界へ!

心理学といえば「性格診断」「メンタリスト」のようなイメージを抱いていませんか? 実は数学や統計、プログラミングができる理系の学生にこそ学んで欲しい学問です。
大切なのは人間に興味があるかどうか。その意味でも「人間」=生き物の一種だと捉えられる、「生物」が好きな生徒は大歓迎ですよ。