コラム

ミステリアスな場所

 保育園の頃、悪さをするとよく入れられた物置があります。ほうきなどの掃除道具が置いてあったのですが、コンクリートの床、壁、そして小さな窓には鉄格子がついていて、私の中では「牢屋」でした。そこに入れられると、クモの巣がはった鉄格子の間から空を眺めたものでした。でも、そこは私にとっては怖い場所ではなく、何となくワクワクするところだったのです。なぜワクワクしていたのか、理由は覚えていませんが、もしかしたら、そこでは誰にも邪魔されずに、いろいろな想像ができたのかもしれませんね。
 小学生の頃は、町の建設会社の倉庫に友だちとの「ひみつ基地」がありました。今思うと不法侵入だったのですが、学校帰りに友だちとそこに立ち寄っては、何か儀式のようなものをしたり、おしゃべりをしたりして、自分たちの世界を楽しんでいました。薄暗く、資材や道具が置いてある倉庫の中には、ロフトがあり、梯子を上ったそのロフトが私たちの場所でした。拾ってきた石や、つんできた花を飾って、誰にも知られない自分たちだけの空間を持つことが、嬉しくて、楽しくて、果てしない想像の世界を毎日繰り広げていました。
 高校の頃は、学校の近くに林があり、その中に小さな「喫茶店」がありました。林の中にあったので、喫茶店に入る姿は誰にも見られず、店内は狭くて、暗く、コーヒーの匂いのする大人の場所でした。学校帰りに友だちとそこによっては、マスターを交えて話をしたものでした。その頃、小遣いはもらっていなかったので、たぶん、何も注文せずに、ただしゃべりに行っていたのではないかと思います。他愛のない話をしたり、恋愛の話をしたり、笑ったり、泣いたり。
 「牢屋」「ひみつ基地」「喫茶店」は今はもう、そこにはありません。保育園は別の場所に移動してしまいましたので、園舎自体がなくなってしまいました。建設会社の倉庫も、当時から相当古かったのですが、解体されてしまったようです。喫茶店にいたっては、現実にあった場所かどうかもわからなくなってしまいました。というのも、その喫茶店の話を、同じ高校に通った妹にすると「そんな場所は知らない」と言うのです。林も今はありません。こうなると、もう自分の想像なのか、現実なのかもわからなくなりましたが、今でも鮮明に思い出せる光景と、におい、そしてその時に味わった気持ちは本物のような気がするのです。これらの場所が客観的に存在したのか、調べるすべはあるかもしれませんが、そんなことはあまり重要でなく、これが私の中に確実に存在することの方が大切な気がするのです。
 学生サポートルームのコラムなんだから、何か心理学的なことを書いて結ぼうと思ったのですが、うまくいかないのでやめます。そんな、怖いけどワクワクする、怪しいけどノスタルジックな場所、あなたの中にも存在しますか?

学生サポートルームカウンセラー