こころの健康

ネガティブ思考との付き合い方

 来談される方々の困りごとの一つとして、ネガティブ思考はよく聞かれるテーマです。私たちは、なぜネガティブ思考に陥ってしまうのでしょうか。

 心理学と一口に言っても、認知、行動、情動、思考・・・様々な角度から研究や探求がなされていますが、脳の働きに少し目を向けてみたいと思います。

 人間の脳は、脳幹などのかなり原始的な爬虫類の脳(内臓機能や呼吸といった生命維持の役割)の部分と、大脳の感情や情動などを扱う哺乳類の脳(繋がりやコミュニケーションを担う)と、大脳新皮質の霊長類の脳(思考を扱う)との3つの部分から成り立っているという見方があります。(諸説あります)この3つの部分が、ヒトへの進化の過程でそれぞれ成り立ってきて、そして、個別に働いたり、繋がって連動したりすることで、私たちの人間の行動や感情が決定されるというものです。

 この説からすると、先々の身に起きる危険を予測する、不安要素にアンテナを張り巡らす、といったことは、人間が自らの生命を守るために古くから必要な機能だったと捉えることもできます。つまり、爬虫類の脳が強く関わっているとも言えます。例えば、何か不審な物音がすれば、反射的にそちらの方をすぐさま目で追い、注意を向ける必要があります。一度森の中でクマに遭遇した場所は、回避する必要があります。人間にとって、不安や恐怖といったシグナルは、生き延びるために最重要のものでした。

 ところが、私たちの今の生活は、そこまで身体の危機を察知する必要がない場合がほとんどです。ですが、人間の脳はそうした古来からの生存のための機能を有しているがゆえに、住まいや食べ物、そして安全がある程度確保されている生活においても、些細な環境の変化で不安や恐怖のシグナルが作動してしまうということが起こりうるとも考えられます。
些細な出来事に、不安や恐怖が出てくる、一度経験した傷ついた体験を繰り返し思い起こしてしまう、傷つけてくる誰かに対する防衛反応で怒りに圧倒される・・・など。

 環境や個性によって差こそあれ、人間とは本来、身を守るためのシグナルによって、ネガティブ思考に陥りやすい生き物だとも言えるのかもしれません。ネガティブ思考そのものは、「私」のせいじゃない、そう考えると少し楽になりませんか。では、このネガティブ思考とどう付き合っていけばよいでしょうか。

この対処方法は、心理学や様々な心理療法で研究されていますが、ここでは、2つの方法をご紹介したいと思います。

一つめは、日ごろのポジティブな経験をよく味わい、身体のレベルで感じていく、そして、ポジティブな言葉がけを常日頃から自分にしていくという方法があります。イメージとしては、たんぱく質、カルシウム・・・食べ物の様々な栄養素を日常的に取り入れているのと同じように、心に栄養を与える、心のメンテナンスとして意識的に行います。

 ポジティブな経験は、美味しい、嬉しい、楽しい、面白い、心地いい、気持ちがいい、清々しい、ほっとする、落ち着く、癒される、なんでもよいです。大事なポイントは、その経験の際に、視覚や聴覚、嗅覚などの五感を含めた身体感覚をよくよく感じとることです。それによって、言葉や理屈を超えたところで、安心感のシグナルを自らに送ることができます。

 また、私たちは、自分に対しても批判的な目を向けがちです。達成欲求が強い方や、普段から頑張り屋さんであればなおさらのこと。予防として、心地良さの感覚とともに、心地よい優しい言葉を自分に届けてみることも良いでしょう。「頑張ったね」「大丈夫だよ」「そのままでいいよ」「きっとうまくいくよ」「ありのままの自分でいいよ」など、どんな言葉でもよいです。

 二つめは、気づきです。私たちは、ネガティブな思考に覆われているとき、世界や自分自身は実際に現実にネガティブであるかのように見え、先々のイメージもネガティブに覆われます。そのイメージがまたネガティブな思考を呼び、雪だるま式に増幅します。ですので、それが起きてしまった時には、まず、そこに気づいてみましょう。「私今、ネガティブになっているな」これだけでも、増幅しない、止まる、あるいは、和らぐことがあります。地図のストリートビューから、通常の地図の視点に切り替わるようなイメージ、つまり、俯瞰してみるということです。

普段から自然とこれらの方法をとっている方もおられるかもしれませんし、難しい、よくわからない、抵抗感がある、と感じる方もおられると思います。

 サポートルームでは、あなたの困っていることや悩んでいることのお話を丁寧に聞いていくことで、その対処法を一緒に考えたり、その方にとってどんなことが役に立ちそうかについて話し合ったりすることもできます。一人で行き詰った際には、ぜひ気軽に訪れてみてくださいね。