2008年5月10日 (第2853回)
うつ病とメランコリー
帝京大学医学部精神神経科学教室 准教授 内海 健
現在、うつ病に罹患している人は100万人にのぼるといわれています。私が精神科医になったころには、まだ10万人そこそこでした。この30年間に10倍近くになったわけです。こうした急激な変化に対して、医療は機敏に対応していかなければなりません。
いわゆる「うつ病」と呼ばれるものの中には、本来の病気としてのうつ病、ストレスなどに起因するうつ状態など、さまざまな様態がありますが、最近ではこれらの境目があまりはっきりしなくなっているようにも思われます。また、うつとは必ずしも悪いものとはかぎりません。私たちが成長する過程では、必ず落ち込みを体験することがあるはずですし、それが心の成長を促すことになります。19世紀のヨーロッパでは、メランコリーがある種の時代精神でもあり、メランコリーを経験して初めて一人前というような風潮さえありました。
こうしたうつの多様な側面についてお話ができればと思っています。