2008年6月21日 (第2859回)

冤罪はなぜ起きるのか-被疑者の取調べと虚偽自白-

法学部 教授 葛野 尋之

 裁判員制度が、いよいよ来年5月 21日にスタートします。一般市民から選ばれた裁判員が関与することによって、刑事裁判は大きく変化することになります。

 他方、鹿児島選挙違反事件、富山氷見事件、北九州引野口事件、大阪地裁所長襲撃事件など、冤罪事件が続いています。昨年は、実際の痴漢冤罪事件をモデルにした映画も公開され、大きな話題となりました。冤罪にはどのような原因があるのでしょうか。もちろん、個別具体的事件ごとに異なる原因はありますが、大多数の事件に共通するのが、逮捕・勾留された被疑者を長時間、強制的に取り調べることによって虚偽の自白が引き出されたことです。「真犯人でなければ、自分がやったなどと自白するはずがない」。「自白した以上、真犯人に違いない」。皆、このように信じています。しかし、真犯人でない人が「自分がやった」と真実とは違う自白をすることもあるのです。

 

 なぜ、真犯人でない人が虚偽の自白をするのか。虚偽の自白を防止し、冤罪をなくすためにはなにが必要か。現在までに開始され、提案されている手続改革で十分なのか。裁判員制度が始まる前に、これらについて十分検討し、冤罪を防ぐための手だてを講じる必要があります。市民が冤罪に手を貸さないためにも。