2008年10月4日 (第2870回)

視覚表現と錯視

文学部 教授 北岡 明佳

 同じ大きさのものが違う大きさに見えるとか、ある色が異なる色に見えるとか、静止したものが動いて見えるといった現象のことを錯視(さくし)といいます。錯視というのは要するに目の錯覚のことですから、錯視の研究とは変な見え方を調べることです。

 変な見え方を調べて何の役に立つのかと聞かれた場合、「錯視研究は実生活にはあまり役に立ちません」と私なら答えます。しかし、ものを見る働き(視覚系)の研究には大いに貢献します。錯視研究は基礎科学なのです。そのような科学的意義の他に、錯視にはエンターテインメント性があります。

 要するに、錯視はどういうわけかおもしろいのです。また、錯視には美的性質があります。錯視の強い図形は美しいことが多いのです。これらの不思議な性質の由来と関係性を明らかにすることが、錯視研究の仕事です。もっとも、錯視の科学的研究はある程度進歩しましたが、錯視のエンターテインメント性と美術性の研究については、まだあまり進んでおりません。つまり、錯視の研究には領域横断的センスが必要です。