2005年7月23日 (第2736回)

国際テロリスト取締りと法の支配―イギリスの経験から

法学部教授 葛野 尋之

 イギリスにおいても、現在、テロの脅威が広く伝えられ、テロの防止・取締も強化されてきています。たしかに、テロの防止・取締は、それ自体、たいへん重要な政治的課題です。

 しかし、テロ取締において用いられる手段は、往々にして行き過ぎたものとなりがちで、人権保障のために歴史的に作り上げられてきた諸原則と矛盾することがあります。イギリスでは、2001年テロ取締法が、国際テロリストの嫌疑のある外国人を嫌疑がそれほど強くはないために起訴して、裁判にかけることができない場合、国外に退去強制できないときは、不定期間、拘禁施設に収容することを認めていました。

 イギリス国内にも適用されるヨーロッパ人権条約にこの規定が違反しないのか争われた裁判において、2004年12月、最高裁にあたる貴族院は人権条約に反するという「違憲判決」を出しました。

 今回は、この判決の意義を中心に、拘禁施設への収容に代えて電子監視を認めた最近のイギリス・テロ取締法改正を含め、テロ取締における「法の支配」について検討したいと思います。