2005年4月9日 (第2723回)

地理から見える「枕草子」の景観

文学部教授 片平 博文

 『枕草子』は清少納言によって書かれた随筆で、長保3(1001) 年頃までに成立したとされています。冒頭の「春はあけぼの」や「香炉峰の雪(雪のいと高う降りたるを)」は、誰でもよく知っている有名な個所ですが、 300章段以上にも及ぶ全編をすべて読んだという人は案外少ないのではないでしょうか。

 『枕草子』の内容は、類聚的章段、随想的章段、日記章段の3つに分けて考えられることが多いようです。

 ここでは、作者である清少納言の経験・回想や当時の史実に基づいて綴られたものとされる日記章段の一つを取り上げて、平安時代中期における平安京とその郊外の景観を、歴史地理学の手法を取り入れて復原してみたいと思います。取り扱うのは、「五月の御精進のほど」の書き出しではじまる章段です。

 では、およそ千年の時をさかのぼり、『枕草子』にみえる緑あざやかな初夏の空間を訪ねてみることにしましょう。