2010年5月15日 (第2936回)

大衆文学の批評空間 ―ドイツにおける欠如と日本における確立: 菊池寛と直木三十五を中心に

同志社大学言語文化教育研究センター 准教授 ベティーナ・ ギルデンハルト

 エンターテイメント文学は鑑賞のためではなく、ただ単に消費するための「低俗」なものなので、文芸批評に値しない、またはそれを必要としないというのは、 ドイツの文芸界において根強い考え方である。その「常識」は日本の文芸界を観察すると、揺すぶられる。純文学のための芥川賞と並んで、年に二回大衆文学のための直木賞が授与される。 授与の際、審査委員の批評も公表される。本土曜日講座の発表では、菊池寛と直木三十五を大衆文学批評の創立者として捉え、日本の文芸界における、 ドイツ人にとって驚くべきこの現象のみならず、第二次世界大戦後忘れられかけ、今は静かな再発掘の対象になっている二人の作家の戦前の活動にも着目してみたい。

聴講者の感想

 菊池寛と直木三十五は近代日本文学史上大衆文学の先駆的役割を果し、また共に後進の育成に尽した足跡を残している。 然るに両人の作風に対する論評は日独でかなり見解を異にしているようで、これは国柄か国民性の差違によるのかも知れない。 因みに通俗的なストーリーは解釈の巾が狭いにも拘らず奥深さを備えており、これが魅了を誘うもととなり、後世に着目される所以ともなろう。