2010年5月22日 (第2937回)

世界文学として、野坂昭如の 『エロ事師たち』と『とむらい師たち』

静岡大学 専任講師 スティーブ・ コルベイ

 野坂昭如の作品は海外でも多く翻訳されている。当然日本にも多くの読者がいる。しかし『火垂るの墓』は例外として、国内外を通じて野坂についての学術的研究は未だ少ない。

 日本の文学史上で野坂の作品は重要な意味を持つと考える。ここでは『エロ事師たち』と『とむらい師たち』の二作品を取り上げ、野坂の世界観や文学観について述べる。 併せて野坂の作品が世界の文学や思想とも多くの共通点を持っていることについて指摘する。

 野坂を分析する際、生・死・性が大きなテーマとして取り扱われることが多い。実はそれは出発点であり、野坂はそれを超えた社会や歴史の問題を投げかけている。 野坂は作品の中で、戦後の影から離れようとして離れられない社会とそこに生きる人々の姿を淡々と描き出している。

 この視点は、他の日本の作家や世界の思想家とも繋がりがある。具体的には、澁澤龍彦やヴィトルド・ゴンブローヴィッチ、ジル・ドゥルーズ、ギー・ドゥボールである。 彼らと野坂の作品を比較して文学観や美学の共通点を見出す。そして、野坂の世界文学としての重要性について考察する。

聴講者の感想

 貴重なお話ありがとうございました。野坂昭如の小説は総合的な側面も持っている事が分かり、エッセイ等から自分でも勉強してみたいと感じました。 野坂昭如のエロスの描写の「セイケツ感」に気付きました。世界の日本文化の理解はとても興味深かったです。