2010年9月25日 (第2951回)

裁判員裁判:市民の望む刑罰と報道の影響

ポストドクトラルフェロー・ 文学部 講師 山崎 優子

 2009年12月に内閣府が行った世論調査によると,「場合によっては死刑もやむを得ない」と回答した者は85.6%に上っています。 この数値は,2005年の調査時よりも4ポイント高く,死刑制度を廃止する傾向にある世界情勢と逆行するようです。 こうした厳罰化傾向を強める理由はどこにあるのでしょうか。

 ある研究者は,事件報道のあり方,刑罰についての理解の低さが厳罰化傾向を強めていると指摘しています。 センセーショナルな事件報道によって,犯罪率が高まっているかのような誤解を生じる可能性があり, 多くの人は無期懲役囚のほとんどがいずれは出所できると考えているようです。

 『法と心理学/司法臨床』最終回は,市民が望む刑罰とはどのようなもので,それにはどのような要因が影響しているのかについてお話しさせていただきます。  

 先日実施した調査では,ある種の事件報道は,市民の司法判断に影響を及ぼす一方,容疑者の生い立ちに関する報道, 事件への有識者のコメントに対して,多くの人は否定的であるという結果が得られています。

聴講者の感想

 裁判員裁判の発足に伴い、犯罪に対する刑罰の在り方に関心が高まっているが、市民が量刑の是非を判断するのは容易でない。 つまり事件の真相を知る手段は限られており、その上報道内容に偏りがあれば誤った先入観に捕らわれかねず、ミスリードされる危険がある。 従って情報は冷静に見極める良識が求められるが、一方報道の自由は自制を前提に人権を尊重する責務を果してこそ成り立つであろう。