2010年10月30日 (第2956回)

漢詩による歳時記―范成大と陸放翁―

神戸大学 名誉教授 一海 知義

 漢詩の分類

 日本の詩歌には、古くから四季すなわち春夏秋冬で分類する伝統があった。

 たとえば最古の歌集『万葉集』は、全二十巻のうち二巻、第二歌集『古今和歌集』は、同じく二十巻のうち六巻が、四季で分類されている。

 一方中国では、最古の詩集『詩経』は、風(ふう)(地方の民謡)・雅(が)(宮廷の楽歌)・頌(しょう)(宮廟の楽歌)と三分類し、四季とは無縁である。 また、六朝時代の大部なアンソロジー『文選』はテーマ別、たとえば「詠史」「招隠」「詠懐」「贈答」「行旅」などの分け、式では分類しない。 そして、清代に編集された唐詩の全集『全唐詩』約五万首は、作者別に分類する。

 これらのことから、中国の詩人は季節の変化に鈍感だったのだろうと推測するのは、誤りである。杜甫や白楽天の詩集を少しひもとけば、 直ちにその誤りに気づく。四季で分類しないのは、中国の国土が余りにも広大で、全国統一的な季節感覚に乏しいからだろう。

 現在の日本では、三十年ほど前から、中国古典詩(漢詩)を識別に選んで分類した、いわゆる「漢詩歳時記」的な書物が幾種類も出始めた。 今では春夏秋冬それぞれの作品を、まとめて読むことができる。

聴講者の感想

 ユーモアを交えた講義で、平易に解読していただき、とても、楽しく、あっという間に、1時間半が過ぎてしまいました。 本日は、宋の詩でしたが、唐詩も教えてほしいと思いました。また、日常的に漢詩を学ぶ講座があればいいのにと思います。