2011年5月14日 (第2976回)
白川静の中国文学論
文学部 教授 萩原 正樹
白川静先生の学問は、甲骨金文学・中国神話学・中国思想・中国文学・日中比較文学など多岐にわたり、広大かつ深遠です。今回私がお話しさせて頂くのは先生の中国古代文学論についてですが、この中国古代文学論に限っても先生の研究は詩経、楚辞、楽府、古詩、漢賦、六朝詩など広範囲に及び、またそれぞれに深い洞察がひそんでいて、その全貌を限られた時間でお話しするのはとても困難です。そこで今回は、先生の詩経研究と古詩成立に関する研究とを取り上げ、特に旧来の説といかに異なる、先生独自の学説であるかについてお話しさせて頂きたいと思います。なかでも詩経研究は、これまで連綿と続いてきた詩経学を一変する、きわめて革新的な研究でした。先生は詩経詩篇のすべてについて訳注を残しておられますので、これも紹介しながら先生の詩経研究を見ていきます。先生の訳詩は、学問的な厳密性に裏付けられていることはもちろんですが、文学作品としてもたいへん味わい深いものがあります。その文学性は、おそらく先生が若年の頃から最晩年に至るまで親しまれた短歌の制作と関連があるのではないかと思います。今回はその先生の短歌作品についても紹介する予定です。
聴講者の感想
詩経にしぼられて講義されたので、分かりやすかった。万葉集や古今和歌集にも影響していることにあらためて、そのつながりのあることに驚くのみ。防人の歌も大変関係していることもあらためて感じます。
卯月抄を読ませて頂くと、日本の戦後史の流れと、自分がその頃どのように過ごしていたかと思い出すことになりました。