2011年5月28日 (第2978回)
白川文字学
漢字教育工学学会 理事 津崎 幸博
許慎の『説文解字』の字形解釈は今なお権威あるものとされている。白川静が、漢字の成立当初の形をそのまま残している甲骨文・金文を研究し、漢字の形とその意味との関係を明らかにして組織した文字学の体系を白川文字学といい、『説文』に代わるものとされる。白川は約七十年の研究生活の前半生を白川文字学の形成に費やした。そしてその文字学に基づいて思想・歴史・民族・文字等の広範囲に及ぶ古代学、白川学が生み出され、約三千年前の古代中国人の考え方や行き方、社会のあり方を明らかにした。
従来、口の形と考えられてきた (さい)は甲骨文・金文では載書、神への祈りの辞を収める器の形であるとして、 を要素として含む百余りの字を系統的に解釈する道を開いたのは白川文字学である。この を例として白川文字学の形成について述べてみたい。
白川はその文字学の成果を、『字統』『字訓』『字通』を書いて、親しみやすい字書の形態で多くの人に伝えようとした。この字書三部作の編集に協力したものとして、字書作成にまつわる話をしてみようと思う。
聴講者の感想
非常に勉強になりました。日ごろ、気にもせずに過ごしていた文字が、実 は大きな文字学の基本に基づいて3300 年前の文字の理論体系が確立されていたことは驚きでした。今後ともこの講座を続けていっていただきたいと思います。