2011年6月4日 (第2979回)

白川静と民俗学と

大阪産業大学教養部 教授 大川 俊隆

白川先生と私

 白川先生に師事したいと願ったのは、大学時代に中公新書の『詩経』を読んだのがきっかけであった。これは、儒教の経典の一つである詩経を記紀歌謡や『万葉集』などの古代歌謡としてとらえ、民俗学の観点から解釈した名著である。紆余曲折があって、私が実際に先生に師事できたのは、それから何年も後のことであったが、その間に、この『詩経』が成るまでには、先生の研究生活のなかで、甲骨学・金文学・説文学と着実に研究の歩を進められた長期の過程が存したことを知ることができた。立命館大学院に進む際に、先生から、『興の研究』『詩経研究通論篇』『甲骨金文学論叢』1-10集を頂いた。すべて先生自らがガリ版に切り印刷された油印本であり、先生の研究の中期的成果ともいうべきものである。これらは今でも私の宝である。

聴講者の感想

 白川博士は漢字研究の権威として著名であるが、併せて民俗学との交錯により伝承文化を包括しその成立ちを考察されたようである。民俗学については、他で国文学に導入された先例があるが、それとは異なる視角で斬新な諸説を述べられているのは意義深い。詩経(古典)と民俗学との関りを横断的に解き明かし、相関性を審らかにされた成果は、世の啓発に資する材料として貴重であろう。