2011年7月9日 (第2983回)

近代京都の景観と街並みを再現する ~「京都市明細図」のデジタル化から

衣笠総合研究機構 ポストドクトラルフェロー 赤石 直美

 昨年11月、京都府立総合資料館において、『京都市明細図』という昭和初期から戦後にかけて作成された地図が公開されました。これは火災保険の利率を算定するために各都市で作成された火災保険地図の一つです。291枚から成る『京都市明細図』には、建物が一つずつ描かれており、建物の階数や店の販売品目、企業名なども記されています。よって、第2次世界大戦前後の京都市の景観を知るための有益な資料として注目されています。

 京都府立総合資料館の協力のもと、一枚ずつスキャニングされたこの地図は、GISを用いることで一枚の地図として表示されるようになりました。また描かれている個別の建物情報についてもデジタル化を進めています。

 建物の記述を細かく見ていくと、近代末の京都の町中には、住宅をはじめ、商店やいわゆる伝統工芸に関わる工場が多く立地していることがよくわかります。そこには、職住近接の暮らしが成り立っていたようです。現在は観光都市として存在する京都、その近代の姿を『京都市明細図』のデジタル化を通じて、再現してみたいと思います。

聴講者の感想

 他府県のものから見る京都は「歴史のある古くて伝統のある街」というイメージが大変強かったのですが、本日の「京都市明細図」のデジタル化からの分析を通じて大きく街並みが変容していることが分かりました。

 御池通の広い道は、第2次世界大戦時の建物疎開の結果だったという事実も初めて知りました。京都の景観が変わってきているということは、観光客の立場からすればさびしい限りです。

 京都で生活する人には「変化」も必要でしょうが、変わらない京都も是非維持してほしいと身勝手に思います。本日の研究成果がそういう方面に生かされれば、すばらしいと考えます(大阪府民)。