2012年3月10日 (第3006回)
バリア研究:記憶の心理学からみえてきたもの
立命館大学文学部 教授 星野 祐司
記憶は人々の判断に影響を与えます。たとえば、単純接触効果と呼ばれる現象がありますが、これは、何度か見たり聞いたりして接触すると、その対象を親しいと思うだけでなく好ましいと判断する傾向のことです。身近な人を尊重しようと意図的な判断を行っているというわけではなく、記憶された以前の経験が「好ましい」という判断に影響を与えていると考えられます。このように記憶はさまざまな錯誤を生み出します。また、記憶自体が錯誤である場合もあります。錯誤といっても、人が生きていくうえでむしろ役立っている場面も多いと思います。さらに、そのような錯誤を通して記憶のはたらきを心理学として研究することもできます。人の判断が経験に依存することを理解して、人工物をうまく構成すれば、人による操作も容易なるでしょう。そのような問題だけでなく、記憶についての理解は自分自身をうまく生かすことにも結び付いていると考えています。いくつになっても新しいことを学習したり、教わったりすることは必要です。記憶の心理学が社会の問題をすぐに解決できるとは残念ながら思えないのですが、諸問題を緩和することにはつながると考えています。
聴講者の感想
一時的記憶のテストで、ある一点を注意すると、もう一方の記憶が自分自身の中であやふやとなり、他の注意を見逃してしまうことを知りました。脳のトレーニングを日々やっていきたいと感じました。