2012年7月7日 (第3021回)

ご挨拶 (※第6回白川静賞受賞式開催) 詩経の中の愛の形─恋歌を中心に

立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長 加地 伸行
立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所 客員研究員 高島 敏夫

 『詩経』は日本の『万葉集』に相当する古代歌謡集ですが、儒教の基本的な古典として読まれてきた伝統があるため、堅いイメージで捉えられがちです。詩篇から先人の残した教えを読み取ろうとしてしまうのです。しかし実は『詩経』には、たくさんの恋愛詩が収められています。しかも『万葉集』にしばしば見られるような大胆な愛情表現も見られます。ただ古代特有の隠語や隠喩でもって表現されることが多いため、気付かれにくかっただけのことなのです。20世紀以降の詩経研究はこのようなレトリックに注目して、『詩経』の愛情表現の世界を次第に明らかにしてきました。その代表格が白川静の詩経研究です。白川文字学が広く知られるようになりましたが、白川の学問の出発点は詩経研究です。今回はその白川の研究を踏まえながら、詩経に見える恋歌の世界の一端についてお話しいたします。

聴講者の感想

 本日の講座については、一度読んでみたいと思いつつも難しそうでなかなか手を出せなかった詩経を、その中から恋愛詩を特に取り上げて、判り易く解説して下さったので、大変面白かった。隠語、隠喩の表現は和歌にも通じる所も有しつつも、実に奥ゆかしくその内実を表現したところに、にやにやせざるを得なかった。