2005年11月12日 (第2751回)

足利尊氏の人と政治

文学部教授 杉橋 隆夫

 戦前の皇国史観に基づく尊氏=逆賊説は、とうに克服されたはずなのに、京都市民の間における尊氏の人気はいまひとつのようです。今年からようやく、時代祭に室町時代の行列が登場することになったものの、尊氏を象徴する騎馬武者は、いまだ見られそうにありません。

 しかしもし、室町(足利)幕府が京都に開かれなかったら、現在の京都の景観や機能は、もっと寂しいものになっていたに違いありません。その意味で彼は、京都とって大恩人の一人だともいえます。

 元来、鎌倉源氏将軍の正統な後継者を自任していた尊氏は、鎌倉への執着が強く、同所に幕府が再興される可能性が高かったのです。それがどうして、一転して京都開府となったのか。その間の事情を当時の軍事・政治情勢から解明し、併せて、前後の政治的展開と絡めつつ、人間的にも魅力に満ちた尊氏の実像に迫ります。