2012年11月24日 (第3038回)
フロイトの現代性-子供がぶたれる世界の構造
立命館大学先端総合学術研究科 教授 西 成彦
フロイトといえば、「精神分析入門」や「夢解釈」など、現代思想の「古典」の名に値するものがたくさん存在しますが、今回は短いものとして「子どもがぶたれる」を取り上げます。「幼児虐待」は、かならずしも現代に特徴的な現象ではなく、それこそ人類の黎明期から人間社会のなかに蔓延していたことがらではないかと思います。われわれは、日々のメディア報道を通じてばかりではなく、日常生活のなかでも、子どもが蹂躙され、それを黙って見過ごしてしまう経験(妄想と言ってもいいかもしれません)に事欠かないのではないでしょうか。そのような人間心理の内奥に切りこんだひとりがフロイトでした。
わたしは比較文学を専攻し、世界の数々の文学を読んできた人間ですが、私たちの生きる世界は、現実世界も妄想の世界も、そこにおいて暴力は無視できない形でひそんでいます。私たちがいつ「ぶたれる側」「ぶつ側」に身を置かないとも限らない世界の構造について、その原点を見きわめられたらと思います。