2013年2月16日 (第3045回)
戦前の台湾<高砂族>への親和と<霧社事件>
大阪学院短期大学経営実務科 教授 竹松 良明
1895年に始まる50年間にわたる台湾統治の前半は、日本総督府による高地原住民の帰順政策に明け暮れている。しかし戦前の内地人作家たちが台湾を描いた小説・紀行を仔細に観察すれば、そこには<高砂族>と名付けられた高地人と内地人との間に通い合う一種不思議な親和感が明瞭に認められる。作家たちが台湾を描く時、人口としては大部分を占める本島人(中国人)への興味は薄く、その一方で高砂族との心的交流を題材とした作品が多いことは顕著な傾向として指摘できそうである。恐らくそこには日本の理蕃政策の歴史を通して、両者間に形成されていった根深い牽引と反発の実相について改めて再認識させられるものがあるだろう。そして帰順政策の最後に位置する1930年の<霧社事件>の中にその実相が隠見している。佐藤春夫「霧社」、中村地平「霧の蕃社」「蕃界の女」、大鹿卓「野蛮人」、坂口零子「蕃地」などに描かれた高砂族のイメージを基にこのテーマについて一考したい。