2013年2月23日 (第3046回)
旅する視覚―海外紀行文という領域
立命館大学文学部 教授 中川 成美
近代が果たした大きな成果の一つに交通機関の発達があります。19世紀以降、自動車や鉄道汽車、飛行機の目覚しい発達は、みるみるうちに地球を狭くして、人々は縦横に世界を駆け巡るようになりました。近代ツーリズムがここに誕生します。日本人が鎖国から解き放たれ、世界をめざしてつきすすんでいく道程は、この近代ツーリズムの発達期にちょうど重なり合います。西欧の人々は未知なるものとしてのアジアに熱い視線を注ぎ、アジアは世界の中心として機能する西欧社会を貪欲に吸収していきました。
この二つの視線は時には交じり合いながら、しかし時にはすれ違いながら、お互いを認識しようとしてさまざまな試みをしていきました。日本人が描いた海外紀行文に注目して、そこに再現される近代の風景を考えてみたいと思います。