2013年11月30日 (第3078回)

『グリム童話』の森を考える―「白雪姫」を中心に―

東洋大学文学部 准教授 大野 寿子

 グリム兄弟が収集刊行した『子どもと家庭のためのメルヒェン集』(通称『グリム童話』、初版1812/15年、第7版決定版1857年)には、「白雪姫」、「ヘンゼルとグレーテル」、「カエルの王さまあるいは鉄のハインリヒ」、「森の中の三人の小人」など「森」が多く登場し、物語の進行上重要な役割を果たしています。森は、食料(ベリー類など)や燃料(木材など)の供給といった日常性あるいは現実性を有する一方で、魔女や小人といった不思議な存在と遭遇する非現実性をも有します。奥深く進めば進むほど不思議かつ異質になる空間すなわち「異界」そのものともいえるでしょう。そのような空間に置き去りにされ、自身の身分にはそぐわない家事労働を行い、死と再生を経験する「白雪姫」を中心に、『グリム童話』における森と人間との物理的かつ精神的関わりを考察します。森を聖域とする自然信仰や、森にまつわる古代ゲルマンの法慣習の研究をも手がけていた学者グリム兄弟の視点がてがかりとなります。