2013年12月7日 (第3079回)

武者絵を読む

立命館大学衣笠総合研究機構 客員研究員 岩切 友里子

 武者絵は、『前太平記』『平家物語」『太平記』などの古典軍記、『義経記』『曽我物語』などの物語に見える英雄の武勇、活躍場面を描いたもので、室町時代後期頃から神社仏閣に奉納される絵馬に多く描かれた。その画題と図様は、江戸時代、浮世絵版画が作られるようになってからも継承され、歌舞伎や浄瑠璃、幸若舞などの戯曲とも密接な関連を持ち、幕末には読本、合巻などの小説に取材した題材も取り込んで展開し、明治に至るまで、長い間、子どもから大人まで広く人々に親しまれてきた。

 採りあげられた英雄は数多いが、それぞれに決まった活躍場面があり、多くの絵師が同じ画題を繰り返し描き継いできたことによって、パターン化された定型の図様が人々の間に共通の視覚的イメージとして認識されていった。これらの図像の約束事は一種のイコノグラフィーとして捉えることができる。

 浮世絵には、見立、やつしと呼ばれる、古典画題と当世風俗を関連付ける趣向を持った一類があり、武者画題を扱った作品も多い。こうした絵を当時の人々と同じように楽しむためには、物語の知識以上に、武者絵の視覚的な図像知識が必要不可欠である。