2005年12月24日 (第2757回)

人間の安全保障から見た日本外交

国際関係学部教授 佐藤 誠

 自動小銃を手にハリケーンが去った街をパトロールする武装兵士と、被災地に取り残された貧しい人々―――。

 世界史上最強の軍隊を備え、世界一豊かなはずのアメリカ合衆国で露呈したこの風景ほど、人間にとって安全とは何かという問いを鋭く突きつけたものはない。金持ちは飛行機で避難し、中ぐらいの人間は自家用車で渋滞に巻き込まれ、車すらない貧しい人間は迫る洪水に孤立する。

 ここに「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」という二つの概念と両者の不可分性において人間の安全を捉える「人間の安全保障」論が検討すべき課題がある。

 発展途上概念だけに、都合よい使われ方をされる可能性もないわけではない。米英軍の先制攻撃で陥落したイラクの復興開発支援が、世界の人々すべてから人間の安全保障活動と受けとめられるか、日本人は考えてもよいであろう。