2014年6月21日 (第3098回)

歴史マンガを読む

立命館大学文学部 教授 田中 聡

 日本では明治時代以降、歴史上の人物や事件、時代の諸相をとらえたマンガの傑作が数多く描かれてきました。描線とセリフの多様な組み合わせを駆使して人と人の微細な差異をとらえ、時間の経過を表現する独自の手法を100年以上にわたって洗練してきたマンガは、歴史学とは違った方法で歴史の「真実」に迫っています。今回の講座で2週にわたり取り上げられる「震災マンガ」・「原爆マンガ」は、一見楽に読めそうなマンガという表現/メディアが、まさにマンガならではの視点と視野を活かし、タイムリーで難しい問題の本質に迫っている好例といえるでしょう。

 では、マンガはどのような視点によって現在と過去とを結び、あるいは断絶させているのか。歴史マンガに含まれる作者のメッセージ性や、作品の歴史観に影響を与えた歴史学等の研究状況との関係を探り、マンガの歴史叙述がもっている可能性について考えます。史料上の記述がわずかしかない実在の人物をどのように造形し、正史に表れにくい市井の人々の思いや、既に失われてしまった景観をいかに想像・復元したか。その際、フィクションと史実の距離はどのようにとられたのか。これらについて、いくつかの作品を取り上げ、「いまマンガを読むこと」の意味について問い直したいと思います。