2014年8月30日 (第3103回)

「人貴キカ 物貴キカ」 -防空法制から診る戦前の国家と社会-

早稲田大学法学学術院 教授 水島 朝穂

 NHK朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」の今年2月第4週の放送で、主人公の夫が逮捕されるシーンが出てくる。理由は、「空襲に備える防空訓練で、火を消さずに逃げるよう指示した」というもの。この背景には、「防空法」という法律があった。戦争末期、全国の都市に大量の爆弾と焼夷弾が落とされ、全国で約60万人の市民が命を落とした。そのなかには、防空法が退去の禁止を定めていたことによって逃げられなかった人たちがいた。防空義務の強化により、国民は「命を賭して各自の持ち場を守る」ことを求められ、空襲から逃げることが許されない状況に置かれていたのである。例えば、1945年7月28日の青森空襲では、米軍の空襲予告ビラ(伝単)を見て市民が避難したところ、県知事が配給を停止すると脅して、避難者を青森市に戻した。その日の夜にB29が予告通り来襲し、728人が死亡している。避難したのに無理やり連れ戻されて死んだ人々。ここに、「守るべきものは何か」をめぐる防空法の思想が端的にあらわれていた。本講座では、防空法の目的があくまでも国家体制の防護であって、国民の生命・財産の保護ではなかったことを実証的に明らかにしていく。