2014年9月27日 (第3107回)

軍事情報から近代資料へ ―日本軍作製「外邦図」の学術的活用をめざして―

大阪大学名誉教授、大阪観光大学国際交流学部 教授 小林 茂

 明治以降1945年8月の第2次世界大戦終結まで、日本がアジア太平洋地域に着いて作製した地図を外邦図とよぶ。終戦直後の日本では、外邦図は戦争と植民地統治に結びついた地図として管轄官庁を失うだけでなく、参照もほとんどおこなわれなかった。しかしその学術的価値が徐々にみとめられ、大学関係者や国立国会図書館が目録を作製するほか、「外邦図デジタルアーカイブ」により、画像も公開されるようになった。また在外外邦図の調査の成果として「アメリカ議会図書館蔵、初期外邦測量原図データベース」も公開されている。

 作製以後65年以上が経過し、今やアジア太平洋地域の古地図になった外邦図は、過去の景観を克明に記録し、学術研究だけでなく歴史教育や環境教育の教材としても大きな可能性を持っている。ただしこれを充分に開花させるには、目録や画像データベースのほかに、その作製過程についての適切な理解が必要である。戦時測量や秘密測量、さらに空撮によるものにくわえて、中華民国や欧米の植民地機関作製図の複製によるものも紹介しつつ、今後の外邦図の利用を考えたい。