2014年10月25日 (第3111回)
ヘイトスピーチとレイシズムを考える -マルク・ブロック「歴史のための弁明」を手がかりに
大阪大学大学院国際公共政策研究科 准教授 木戸 衛一
「パパ、だから歴史が何の役に立つのか説明してよ。」
息子のこの問いに応えようと、フランス中世史の大家、マルク・ブロックは、歴史を研究する意味や歴史叙述のありようについて原稿を書き連ねました。当時、ナチス=ドイツの占領下にあって、ユダヤ系であるがゆえに大学からの退職を強いられる不遇の日々の中で綴られた『歴史のための弁明』は、ブロックが歴史家としての自己存在を証明した書です。
今日東アジアでは、領土問題・領有紛争を背景に、ナショナリスティックな歴史観や、自国・自民族に不都合な史実をなかったことにする歴史修正主義が横行しています。歴史学を冒涜するこうした風潮に対し、私たちはどう立ち向かえばよいのでしょうか。
ブロックは、1942年11月、対独レジスタンス運動に専念してリヨンの運動を指導、翌々年3月にゲスターポに逮捕され、激しい拷問の後、6月16日、29人の仲間とともに銃殺されました。ナチス=ドイツに抵抗して彼らが追い求めた理想を検証しつつ、歴史と社会のあり方を考えてみたいと思います。