2015年4月25日 (第3127回)
『中国の神話』を読む
福島大学人間発達文化学類 教授 澁澤 尚
古代の人々が自分たちをとりまく自然の驚異に神々の姿をみたとき、神話は生まれました。古代においては、どの民族もその生活の秩序の原理とすべきものを神話として伝えていたはずです。ところが、中国には十分な意味での神話的な世界はなかったといわれてきました。その物語性を極度に欠く零細な神話群は、従来「枯れたる神話」とみなされ、神話的に統一され組織化された世界をついに現さなかったというのです。しかし、はやくに高度な文字「漢字」を生み出した国が、その文化の源泉としての豊かな神話をもたなかったというのは考えにくいことです。
白川静は、それまで体系的・構造的に扱われてこなかった中国神話を、組織性のきわめて高い整理のゆきとどいた他国の神話と区別し「第三の神話」と位置づけました。
時に「神話なき国」といわれることもある中国に、はじめから神話がなかったわけではないでしょう。今回の講座では、白川の名著『中国の神話』を階梯に、漢字を創りだした神聖王朝の殷が育んでいたはずの神話、特に洪水神話や崑崙伝説、また文字に刻まれた神話的世界についてその一端をお話ししたいと思います。