2015年6月20日 (第3132回)

環太平洋文明の提唱

立命館大学衣笠総合研究機構 教授 安田 喜憲

 人類はこれまで新たな文明原理を創造して、危機の時代を生き延びてきた。この21世紀の危機をのりこえ、新たな文明の時代を創造するためには、新たな文明原理を創造することが必要である。その第一歩が「環太平洋文明」の提唱である。これまで古代文明とみなされてきたメソポタミア、エジプト、インダス、黄河の四大文明のほかに、長江文明が存在することが注目されはじめた。四大文明はいずれも畑作牧畜民が創造した都市文明であったのに対し、近年その存在が注目されはじめた長江文明は稲作漁撈民が創造した文明である。この長江文明の発見によって「環太平洋文明」の存在がはっきり見えてきた。それらの古代文明は太陽を崇拝し、山を崇拝し、柱を崇拝し、鳥を崇拝し、玉を崇拝し、蛇を崇拝するという共通の世界観を持っていた。長江文明とその延長に位置するカンボジアのクメール文明・日本文明、そして太平洋の反対側に発展したマヤ文明・アンデス文明・ネイテイヴ・アメリカンの文明などは共通した世界観を有している。環太平洋造山帯の火山噴火や地震はては津波にいたるまで自然災害の多発する風土、それこそが私たち環太平洋に暮らす人間の世界観を構築するうえでの力なのだ。そうした世界観は「美と慈悲の文明」から「日本的経営」にいたるまで独特の文明原理を生み出した。欧米の市場原理主義に立脚した畑作牧畜民の文明原理では、21世紀の世界がどうしようもなくなった今、それにかわる新たな文明原理をもつ「環太平洋文明」を提唱する。