2015年9月26日 (第3140回)

市場経済移行国ベトナム経済の行方

立命館大学国際関係学部 教授 小山 昌久

 ベトナムは、私たちの記憶にも残る冷戦下での「ベトナム戦争」に耐え抜き、1986年の社会主義体制を維持しつつ市場経済システムを導入するドイモイ(刷新)政策を契機に、経済社会の近代化の道を歩んできた。ドイモイ政策から30年、政治的安定が図られる中、積極的な外国直接投資誘致に成功し今日、近代工業国家として自立を図りつつある。外交面では、ASEAN加盟国としての責任を果たす一方、日本、中国、米国、およびEUとも全方位で友好関係を維持しようとしている。

 このままベトナムは、更なる豊かさを享受できる道を辿れるのだろうか。幾つか、陰の部分が顕在化しつつあるように思える。国家安全保障面では、南シナ海南沙諸島の領有を巡る中国との軋轢、経済面では、自由な市場経済体制と社会主義体制(財産の公有)の矛盾を象徴する、独占的国有企業の存在と、そこに潜む中所得国の罠である。

 米国主導で進む、TPP交渉は、政治、経済両面で、今後のベトナムの行方に少なからず影響を及ぼすものと予想する。