2016年4月9日 (第3162回)

「もの」を見るしくみ

立命館大学 総合心理学部 学部長 佐藤 隆夫

 雑然とした部屋の中にある、ある物体、例えばリンゴを一目で見つけることができます。私たちは、眼から脳にいたる「視覚系」を使ってものを見ているのですが、いま見たいと思っている物体そのものに加えて、回りのゴタゴタも、つまり目の前の情景のすべてが目玉の奥にある網膜という、いわば眼のスクリーンに映ります。見ることは、そこから始まります。目的の物体と回りのゴタゴタを仕分け、切れ切れの情報をうまくつなぎ合わせる。その上で、その物体が何であるか正しく認識する(雑然とした部屋の中のリンゴを瞬時に見つける)私たちの視覚系はそんな賢い仕組みを備えています。

 眼に入ってきた情報を処理するだけでは、物をみることはできません。脳の側で、世界にある物体の性質について、様々な仮定、「物とはこういうものだ」という仮定を持っており、そうしたものと、外界からの情報を上手に組み合わせて、物を見ることが実現されているのです。

 今回の講座では、こうした物を見るしくみの一端をいくつかの面白い実例を交えてご紹介するとともに、そうした仕組みを明らかにするために、心理学の実験室でどのような実験が行われているのかをご紹介したいと思います。